音楽の達人“秘話”

ビートルズの『赤盤』と『青盤』、ジョン・レノンとジョージ・ハリスンだったら選曲は違っていた? 全世界デビュー60周年

ベスト・アルバム『ザ・ビ ートルズ 1962年~1966年』(通称“赤盤”)と『ザ・ビートルズ 1967年~1970年』(通称“青盤)

全世界デビュー(1964年)から60周年を記念して発売された『ザ・ビートルズ 1962年~1966年」(通称“赤盤”)、『ザ・ビートルズ 1967年~1970年(通称“青盤”)』は、これまで2回、CD化されたことは前章で…

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全世界デビュー(1964年)から60周年を記念して発売された『ザ・ビートルズ 1962年~1966年」(通称“赤盤”)、『ザ・ビートルズ 1967年~1970年(通称“青盤”)』は、これまで2回、CD化されたことは前章で述べた。1回目のリリースは単なるCD化、2回目のリリースでは音質を向上されるリマスタリングが施された。

ジョージ・マーティンの息子がリミックス

3回目のリリースに当たる今回は、大きく内容が変化した。前章で述べたようにオリジナル録音テープを新たにミックスし直して~リミックス~21世紀のサウンドに変化させた。オリジナルでは『赤盤』が26曲、『青盤』が28曲だったが、『赤盤』は12曲、『青盤』には9曲が新たに加えられた。

オリジナルの『赤盤』、『青盤』のプロデューサーはジョージ・マーティンだったが、 新しい『赤盤』と『青盤』は、マーティンの息子であるジャイルズ・マーティンがリミックスを行なった。ポール・マッカートニーのソロ・アルバムなどもプロデュースするジャイルズは、ビートルズの生き残りであるポールとリンゴ・スターからも信頼されている。もし、ジョン・レノンとジョージ・ハリスンが生きていたら、選曲はもっと異なっていたかも知れないとぼくは思う。

ベスト・アルバム『ザ・ビ ートルズ 1962年~1966年』(通称“赤盤”)と『ザ・ビートルズ 1967年~1970年』(通称“青盤)と、2023年11月に発売されたザ・ビートルズの最後の新曲『ナウ・アンド・ゼン』

『青盤』に収録された「ナウ・アンド・ゼン」は頭抜けた作品か…

すでに多くのメディアで話題になったが、『青盤』には、ビートルズとしての“新曲” 「ナウ・アンド・ゼン」が含まれている。「ナウ・アンド・ゼン」のオリジナル・テイクはジョン・レノンが1970年代末にレコーディングした曲に、20年後、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター、ポール・マッカートニーが楽器を追加した。

そこから最新の技術、マシン・アシステッド・ラーニング(MAL)を用いて、ジョンの弾くオリジナルのピアノ・パートと彼のヴォーカルを完全に分離させた。それによってオリジナル・テープのノイズが消え、現代のスタジオの基準にヴォーカルが引き上げられ、そこへジョージのギターを残しながら、ポールとリンゴが新たなサウンドを追加した。MALによって時空を超えたビートルズの再結成が可能になったのだ。

「ナウ・アンド・ゼン」はバラッド・タイプの良い曲だとは思う。けれどもビートルズの楽曲の中で頭抜けた作品かというのは、ぼくには疑問に思える。新曲に湧くビートルズのファンに水を差すようだが、もしジョン・レノンが生きていたら「ナウ・アンド・ゼン」の発表を拒んだのではないだろうか?

「ビートルズはカルチャーとして世紀の宝物」ジョージ・マーティンは言った

1993年、『赤盤』、『青盤』がリリースされた頃、ジョージ・マーティンが来日した。1966年、ビートルズが初来日した時と同じ、今は無きキャピトル東急ホテルに宿泊し、ぼくは彼の部屋を訪ねた。

“ビートルズが解散して約3年が過ぎ、私は彼らの偉業を分かりやすく後世に残したいと思った。それでザ・レッド・アルバム(赤盤)とザ・ブルー・アルバム(青盤)を企画して選曲したんだ。ザ・レッド・アルバムはビートルズがライヴを行なっていた時代、ザ・ブルー・アルバムは彼らがスタジオ・ワークに集中した楽曲を中心とした。ビートルズは音楽面だけでなく、カルチャーとして世紀の宝物だと私は思う。その宝物の入り口がザ・レッド・アルバムとザ・ブルー・アルバムなのだ”

ジョージ・マーティン(右)と筆者=1993年

古いアルバムの音色の方が心地よい

ぼくはその仕事柄、数多くの有名人と逢っている。だが、その利点を活かしてサインを貰うのは控えてきた。ファンの代表としてインタビューしているのに、自分だけがサインを貰うのは何か特権を利用しているように思うからだ。でも自分にとってビートルズは超特別な存在だったので、この時は『赤盤』、『青盤』にジョージ・マーティンからサインを頂き、宝物にしている。

“新”『赤盤』、『青盤』に共通して言えるのは現代のステレオ・イメージの音像となっていることだ。後追いのビートルズ・ファンには好評のようだが、リアルタイムで聴いたぼくには古いアルバムの音色の方が心地良い。

ジョージ・マーティンのサインが入ったベスト・アルバム『ザ・ビ ートルズ 1962年~1966年』(通称“赤盤”)と『ザ・ビートルズ 1967年~1970年』(通称“青盤)

岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。最新刊は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。

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