1000円と750円を交換するという作業
競馬はバクチである。私はことあるごとにこれを力説するのでJRAの広報からは目の敵にされているが、あえてまた言う。競馬はバクチなのである。
バクチというのはそもそも、胴元が開帳して罪もない客からテラ銭を巻き上げる悪い遊びのことである。すなわち、巨大胴元であるJRAは馬券総売上の25パーセントをテラ銭として取り、残る75パーセントを「配当」と称して的中者に払い戻している。
わかりやすい例を上げる。さる4月16日、つまり皐月賞の当日の中山競馬場第1レース。馬番連勝馬券の総売上は約4億4000万円分。うち⑤—⑬の的中は、約4400万円分であった。
これが仲間うちのドンブリバクチであれば、10分の1の確率での勝利なのだから、配当は10倍となって当然である。しかし競馬においては25パーセントのテラ銭が控除されるので、このレースでの配当金は750円となる。
早い話が、1000円を支払って購入した馬券は、実は750円の価値しかなく、馬券を購入するということは、実は1000円と750円を交換するという作業に他ならないのである。
この第1レースが終了したとたん、ファンの懐から取り出された4億4000万円のうちの1億1000万円は、煙のごとくテラ箱に消えてしまったことになる。
その30分後、ファンは性懲りもなく約5億円の馬券を買い、うち約3000万円が的中しているにもかかわらず、12.5倍の配当しか受け取ることはできなかった。このレースにおいても、約1億2500万円のカネが煙のごとくどこかへ消えてしまったのである。
賭場の習わしに従い、時間の経過とともに人々の興奮はいや増し、投資金額は上積みされて行く。
かくてメインレース、第55回皐月賞の締切に際しては、馬番連勝馬券で253億円余、枠番連勝で67億円余、その他単勝とか複勝とかはあいにくデータ不足でわからないが、ともかく400億円ぐらいのカネがファンのポケットから放出され、うち100億円ぐらいのカネが煙のごとく消えてしまったのである。
怖ろしい話である。しかも、仲間うちのバクチならトイレに立つフリをして勝ち逃げ、という手もあるが、競馬場の雰囲気はまずそれを許さない。
つまり1日のなかばで運良く勝ちに回っているファンも、結局は勝ち分を上乗せして馬券をさらに買い続けるハメになる。
で、最後はどういうことになるかというと、10万人のファンが競馬場に持ち寄ったカネのほとんどが、煙のように消えてなくなってしまうのである。
よおく考えてもらいたい。控除率はたしかに25パーセントであるが、まさか4人に1人が勝って帰れる話ではない。75パーセントが配当されるといっても、4人のうち3人が元金を保全できるという話でもない。
すべてのファンがたまさかの勝ち分をさらに1日中馬券と換え続けるのだから、最終的に保全される金額は、最終レースの配当総額プラスアルファ、ということである。
ちなみに皐月賞当日の最終レースの払戻し金額は、馬番連勝式で17億円余、枠番連勝式で4億3000万円余であった。まあこのぐらいはお車代として持って帰らせてもよかろうという胴元の呟きが私には聞こえるのであるが、はたしてどうであろうか。
「競馬は当たってもゼッタイ儲からないからね。たいがいにしときなさいよ」と私が言う理由は、つまりこういうことなのである。