早速「出雲そば」を実食!
それじゃあ伝統の「出雲そば」、早速いただいてみようじゃありませんかと、景山さんが営む「たたらや」に案内してもらいました。
同店は1901(明治34)年創業の老舗料理店「一文字家」の直営の出雲そば専門店。松江駅の駅ビルの1階──つまり駅ナカという至便な場所にあり、観光客にも地元の人にも人気です。
おすすめをお願いしたところ、真っ先に出てきたのは、先ほど景山さんが熱弁をふるっていた「大田産大穴子と松江松平そば」(2000円)でした(笑)。
「松江松平そば」は、松江市、松江商工会議所、JAしまね、松江そば組合、松江産そば協議会で作る「松江そば文化ブランド化推進協議会」の今、いちばんの推しメン(麺)。
なお、「松江松平そば」を名乗るには、出雲そばの特徴である、そばの実を殻のついたまま挽く「挽きぐるみ」で作られていること、松江藩を治めた松平家の家紋を付したそば椀で提供することなど、いくつか縛りがあるそうです。
「松江松平そば」は、同協議会に加盟するいくつかの店のメニューに載っていますが、「たたらや」の「松江松平そば」は大穴子や野菜の天ぷらと共にお出ましに。
そば粉には松江のそばの在来種を使っていて、これまた出雲そばの特徴のひとつである「割子(わりご)そば」のスタイルで運ばれてきました。
「割子そば」とは、古くから松江に伝わる食べ方のひとつである、丸く朱(あか)い器に盛られたそばのこと。割子そばの器は、江戸時代にはお弁当としてそばを持ち歩いていたこともあって、四角形のお重が使われていたのだとか。それが明治に入ると、「四角だと四隅が洗いにくい」として、保健所の仕事もしていた当時の松江警察署長の発案で、衛生的な面から丸い器になったのだそうです。
3段で1人前になっている場合が多く、これに自身で薬味をのせ(薬味がのった状態で運ばれてくることもあります)、そばつゆを直接かけていただきます。
こういうのって、かけすぎると取り返しが付かなくなるんだよね、気をつけなきゃと、恐る恐るつゆをかけて調節しながら食べ進めていきます。すると、「割子はね、噛みしめてそばの味と香りを楽しんでください」と、景山さんからそば愛あふれるレクチャーが(笑)。
そして、そろそろ器からそばがなくなる、という絶妙のタイミングで、「少しだけそばに日本酒を足してみてください。ほんのちょっとですよ!」。
なるほど。少しお酒をかけることで、つゆの風味が格段に増します。お酒のいいつまみにもなります。
「こうやって味変をはかるのが楽しいんですよ! なかには塩を持ち歩いている達人もいます」(景山さん)。
もうひとつ、「これはぜひ食べていただきたいです」と、景山さんが出してくれたのは、「島根牛みそ玉そば」(1150円)。
「一文字家」は実は旅館として創業し、1908年からは駅構内で弁当や土産品の販売を始めた山陰地方では誰もが知る駅弁の老舗です。なかでも「島根牛 みそ玉丼」が有名で、お客様のリクエストによりこれをそばにアレンジしたのが、この「島根牛みそ玉そば」なのだとか。
天然酵母みそに砂糖と果汁、そして、地酒を加えて炊き上げた島根牛がどどーんとトッピングされていて、見た目の通り濃厚ですが、挽きぐるみで作る出雲そばは負けてはいません。
前述の「松江松平そば」は松江の在来種を使ったスペシャルバージョンですが、「たたらや」では、通常、寒暖差の激しい奥出雲地方のそばを使用。しっかりと存在感のあるそばの懐の深さを実感しました。