円安が止まらない。輸出産業は好景気となるが、輸入品の価格上昇の影響で食料品などが高騰し、家計へのダメージは大きい。特にロシア・ウクライナの影響で、品薄の小麦が高騰しているのがつらい。同様に「最近高いな~」と感じるのが乗用車だ。コンパクトカーでも、欲しくなるようなグレードはほとんどが100万円台後半から200万円以上で、しかも別途税金などの諸経費が発生する。どうしてこんなに高くなってしまったのだろうか?
画像ギャラリー円安が止まらない。輸出産業は好景気となるが、輸入品の価格上昇の影響で食料品などが高騰し、家計へのダメージは大きい。特にロシア・ウクライナの影響で、品薄の小麦が高騰しているのがつらい。同様に「最近高いな~」と感じるのが乗用車だ。コンパクトカーでも、欲しくなるようなグレードはほとんどが100万円台後半から200万円以上で、しかも別途税金などの諸経費が発生する。どうしてこんなに高くなってしまったのだろうか?
「ステップワゴン」も「ハリアー」も15年前より大幅に高くなっている
最近はクルマの価格が約15年前の1.2~1.4倍に高まった。例えば2009年の時点で、ホンダ4代目ステップワゴンG・Lパッケージの価格は225万7000円だったが、現行ステップワゴンは最も安価な1.5Lターボのエアーでも305万3600円だ。15年前の約1.4倍に値上げされた。
トヨタ2代目ハリアーは、2009年の時点で、直列4気筒2.4Lノーマルエンジンを搭載する最上級の240Gプレミアムパッケージが300万3000円であった。これも現行型は、2Lのノーマルエンジンを搭載するZが403万8000円だ。排気量は小さくなったが、価格は15年前の約1.3倍に高まっている。ほかの車種も似たような状況だ。
値上げの背景には複数の理由があり、まずは装備が充実した。特に安全装備と運転支援機能は急速に進歩した。15年前の時点では、衝突被害軽減ブレーキや車間距離を自動制御できるクルーズコントロールは、非装着の車種が多かった。横滑り防止装置もオプションが目立った。それが今では、義務化もあって標準装着が当然になっている。
ちなみに1990年代に安全装備の採用が始まった頃は、運転席エアバッグや4輪ABSが、それぞれ15万円前後で設定されていた。この時代の安全装備の単価を考えると、今は大幅に安いが、それでも安全装備の種類が多いから値上げは避けられない。そこに収納設備の充実なども加わっている。
ボディ構造の変化もコストを高めた。15年ほど前に比べて衝突安全性能が向上しており、その一方で車両重量の増加を抑えるため、高張力鋼板(※)などの使用も増えている。独立式のサスペンションを車軸式に変えるなど、コストダウンを進めた機能もあるが、総じてコストアップが大きい。
※高張力鋼板 (ハイテン鋼)は、一般的な鋼材と比べて引張り強度が高いため、構造物を軽量化することができる。 耐久年数が長くなり、熱を加えたとしても安定度が高いため劣化しにくい。その代わり、加工や成型がしにくいのが欠点となっている。
このほか昨今では、原材料費や輸送費が高騰して、マイナーチェンジなどの機会に値上げする車種も増えている。
一番売れている軽のホンダ「N-BOX」の価格が15年前のミニバンの価格とほぼ同じ
以上のようにクルマが値上げされる背景には、安全装備や運転支援機能の進化、快適装備や収納設備などの充実、ボディ剛性や衝突安全性能の向上、原材料費や輸送費用の高騰など、いろいろな理由が絡む。
それなのに平均所得は、1990年代の後半から伸び悩む。所得は増えず、クルマの価格が1.2~1.4倍に高まれば、ユーザーとしては小さなクルマに乗り替えるしかない。
本稿の冒頭では、2009年にはホンダ4代目ステップワゴンG・Lパッケージの価格が225万7000円だったと述べた。それが今では、軽自動車のホンダN-BOXカスタムターボコーデイネートスタイルが222万9700円だ。
つまり15年前のステップワゴンの価格は、今ではN-BOXの上級グレードと同程度だ。これではダウンサイジングが急速に進み、N-BOXが国内の最多販売車種になるのも当然だろう。
文/渡辺陽一郎(わたなべ よういちろう):自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスに転向した。「読者の皆様にケガをさせない、損をさせないこと」を重視して、ユーザーの立場から、問題提起のある執筆を心掛けている。執筆対象は自動車関連の多岐に渡る。
写真/ホンダ、トヨタ、Adobe Stock(アイキャッチ画像:umaruchan4678@Adobe Stock)