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■愛おしい「トホホ」と「ワハハ」の拡散

 われわれの訴えと懇願が届かない人は、われわれが想定するよりはるかに多いのだと痛感した私は血迷って、ビニールを剥がし忘れたフィルターの写真を募集したほどである(のけぞるほど応募があり、見事な失敗談には掃除機といやがらせのように空気清浄機をもう1台プレゼントした)。

 募集のあとにはなぜか、友人と失敗をゲラゲラ笑いあうような、親密な空気がSNSに残った。まさかと思うかもしれないが、ほんとうの話だ。

 どんな時にも取説を読まないとか、人の話を聞かない人がいるということを、私は言いたいのではない。もちろん間違った使い方や失敗を未然に防ごうとする部署の人たちはそう言いたいだろうが、私が言いたいのはそれだけではない。

 なんというか、失敗に愛嬌が介在する余地が家電にあることを、私は愛おしいと感じてしまうのだ。そして同時に、多くの人が箱を開けて電源さえ入れればノールックで任せることができるという、大量生産品への全幅の信頼も、なかなかどうして尊いものではないかと思うのだ。

 ビニールを剥がし忘れられたまま働く空気清浄機はトホホという顔で語られ、ワハハと笑顔で拡散される。たとえビニールに覆われたフィルターを暗部に抱えていても、黙々と働いてくれていると疑念すら抱かれない空気清浄機。そこに人間と工業製品の親密な関係を幻視してしまうのは、家電への好意を拾う私の職業病なのかもしれないけど、私が働く喜びの一要素をたしかに形成している。

 ちなみにビニールを剥がし忘れたフィルターの空気清浄機はまったく無為かというとそうではない。プラズマクラスターは出ているので、その面の効果は着実にお届けされているはずだ。だからビニール剥がし忘れ問題は完全な失敗ではないと、ここにそっと書いておく。とはいえくれぐれも、空気清浄機の暗部にはご注意を。

文・山本隆博(シャープ公式Twitter(X)運用者)
テレビCMなどのマス広告を担当後、流れ流れてSNSへ。ときにゆるいと称されるツイートで、企業コミュニケーションと広告の新しいあり方を模索している。2018年東京コピーライターズクラブ新人賞、2021ACCブロンズ。2019年には『フォーブスジャパン』によるトップインフルエンサー50人に選ばれたことも。近著『スマホ片手に、しんどい夜に。』(講談社ビーシー)

まんが・松井雪子
漫画家、小説家。『スピカにおまかせ』(角川書店)、『家庭科のじかん』(祥伝社)、『犬と遊ぼ!』(講談社)、『イエロー』(講談社)、『肉と衣のあいだに神は宿る』(文藝春秋)、『ベストカー』(講談社ビーシー)にて「松井くるまりこ」名義で4コママンガ連載中

■シャープさんの「家電としあわせ」シリーズ

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山本隆博
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