浜からはじまる、鯖寿司づくり
金沢文庫から、赤坂へ。高橋さんはこれまで手掛けてきた鯖寿司を、さらなる高みへとブラッシュアップした。
高橋さんの鯖棒寿司へのこだわりは並々ならぬもの。目指すのは、おもてなしやお持たせにふさわしく、ひと口食べて感動していただける「一流の高級鯖寿司」。
そのためには一切妥協は許さない。
「とことんサバにこだわりたい。モノの良し悪しがもっともわかりやすいのがサバだと思うんです」
そんな高橋さんがメインの鯖寿司に使うのは、神奈川県横須賀市「佐島漁港」水揚げの「佐島のサバ」。高橋さんが金沢文庫のお店時代から、日々買い付けに通って仕入れ、とことんほれ込んできたサバだ。
佐島近海は相模湾の入江に面し、暖流と寒流が混合する黒潮の分岐流といったおいしい魚が育つ好条件に恵まれた豊饒の海。そこで漁獲されたサバは、さわやかな脂のり、ほどよい食感が魅力。あまり市場に流通することはなく知る人ぞ知る絶品のサバだ。
「サイズが小さくてもしっかりした味わいがあって、調理のしがいがあるサバです」と高橋さん。ちなみに、佐島のサバを使った鯖寿司はジェンヌが知る限り、日本中で一颯のみだ。
そして、高橋さんが佐島のサバを使うもうひとつの理由は「現地で買い付け後、『自ら』現場で『即座』に、下処理ができるから」。
一颯の鯖寿司づくりは、なんと「浜からスタート」するのだ。
「最高の鯖寿司を作るためには、なんといってもサバの鮮度保持が決め手です」と高橋さん。
佐島から水揚げがあったと連絡があればすぐさま東京から現地へ向かい、水揚げ後すぐに最高品質のサバを厳選して買い付け。そしてその場ですぐに、包丁とまな板を借りて内臓処理、血抜きを行う。
「サバの繊細な旨みを残し、臭みを出さないためには短時間での下処理が重要。現地で自ら行います」と高橋さん。
内臓処理を終えたサバはすぐに、赤坂の店舗に持ち帰り、鮮度維持のために冷やしながらスピーディにおろす。「時間との勝負です」と長年の経験をいかして極めて迅速に処理!
そして〆作業。塩と砂糖で半日間〆てから、酢に約3時間漬けこむ。
この工程で高橋さんが目指すのは「締める」というより、「サバに『味をつける』」ことだそう。
「うちの鯖寿司のサバは、刺身をのせたのかといわれるほど、〆加減は浅く感じられます。むしろ、ここではシャリとのバランスを考えて醤油をつけなくてもおいしい鯖寿司に仕上げるために、しっかりサバの旨みをたたせて、味をつける重要な工程と考えています」と高橋さん。
締めたサバは、マイナス40度の急速冷凍機で瞬間冷凍。さらに、マイナス60度の超低温冷凍庫で冷凍。とれたてのおいしさをベストコンディションでキープする。
高橋さんの話を聞いていると、漁協か鮮魚店か卸か市場関係者と話しているような気持ちになってくる。浜からお店まで。自力で「珠玉のサバ」の最高の状態を維持する「鮮度の鬼」である。
一颯オープンにあたって、とくに高橋さんが試行錯誤を重ねたのが「シャリ」だった。
「米マイスター麹町」の代表でありお米マイスターの福士修三氏のサポートを得て、山形の「つや姫」をベースに数種ブレンド。ネタの旨みを引き出し、時間をおいてもおいしさが変わらず、かたくならない。なおかつ、米の甘みと旨みもしっかり感じられる「サバ棒寿司専用米」を開発した。
こだわりぬいた米を炊き、やや甘めの酢を加え、刻んだガリ、赤じそを混ぜこむ。
成型は、巻きすを使う。「押し固めることなく均等に形を整えていきます」と説明しながら、手際よく形を作る高橋さん。
カンタンなように見えるが「米の隙間をうめるように、ギュッとではなくホワッとした加減」は長年の経験で「手が覚えた感覚」によるものだ。
仕上げは昆布を巻く。看板メニューの「いぶき棒」(2人前 10切 4800円)は透明感がありながら味わい深い「白板昆布」を。そして「龍皮棒」は、肉厚の真昆布を蒸して味付けした「龍皮昆布」を巻いて完成。
料理人人生をかけた、鯖寿司、お味はいかに!?