「一期一会」を大切に、おもてなしの心が伝わってくる
価格帯としては、アッパーミドルという感じ。けれどネタはかなりこだわったものを提供している同店。いや、私自身は年に一度、大切な人と行きたいという、舌も心もほぐれる贅沢なレベルのお店だ。
「僕らにとっては日常でも、お客様にとっては例えば特別な記念日だったり、大きな病気を乗り越えられて最初のお食事だったりということもあります」と木目田さん。
魚介類のフライに驚く!「車海老のクリームコロッケ」
お店のコンセプトである「革新的な王道」を体現しているのが、旬を意識した魚介類のフライだ。例えば、夏場はアジフライ、冬場ならカキフライやホタテフライなどを予定している。
魚と主食の米がパン粉に代わって、そこにお酢と醤油を合わせることで、大きくみて寿司と一緒という、分解して再構築という解釈。非常にユニークだ。
この日提供されたのは「車海老のクリームコロッケ」。添えられているのは海老の味噌を使ったアメリケーヌソース。クリームの風味はやさしめでエビの旨みが全面に出てきているのはさすが。とっても贅沢なコロッケだ。アメリケーヌソースは、エビの味噌の美味しさが全面に出ている。素材へのリスペクトをビシバシと感じる。
確かにこういうお寿司屋さんでフライが出てくるのは珍しいと思う。このアイデアはどこから得たのだろうか。
「フライはお寿司屋さんにはないでしょう?」ということも理由だそう。「あえてフライにしている」という当たり前の枠にハマらない、尖ったところが好ましい。
今回はアメリケーヌソースだが、シャリ用の合わせ酢と煮切りを合わせた特製の酢醤油を用意しているという。
ネタの提供順にも感じる独自のこだわり
にぎりについて、特に印象的だったネタを語りたかったのだが、本当にどれも文句なしの美味しさで正直絞れない。ひたすら幸せな時間だった。季節によっていろいろな魚が登場するし、魚へのアプローチもそれぞれ異なる。
『久兵衛』時代の仲買さんとも関係性を構築しているのだそう。
「先輩に言われたのは、豊洲市場(当時は築地)は魚を買いに行くのではなく、(仲卸に)顔を売りに行く、ということ。ですから、先日の台風のように天候不良などで魚が入りにくくても、(仲卸から)回していただけるなど、とてもありがたいです」
なお、本マグロは新進気鋭の仲卸『結乃花(ゆのか)』から仕入れている。
この日のマグロは青森産。マグロはサクごと漬けにし、表面だけほんのり火を通しているのが木目田流。昔ながらの伝統的な漬けの方法を取っており、熟成されたような旨みを狙っている。
どれも良かったのだが、驚いたのがとても柔らかく繊細に炊かれた煮蛤。その美味しさに思わず笑みがこぼれまくってしまう。
「ハマグリはやはり春がいちばんいいのですが、僕自身すごく好きですし、お客様の反応もとても良いので、いいものが入ったときのみ提供しています」
中トロもその美しさ、美味しさにため息がこぼれる。いろいろなものがこぼれてしまうが、要するにほっぺたがずっと落ちているような状態だ。