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■炊飯器は「あなたの時間」を取り戻したことを祝福する

 暴論ではあるけれど、炊飯器がSNSで好感度が高いのは事実だ。逆にコマーシャルを打つような空気清浄機やテレビは、SNSではあまり注目されない。ソースは私である。なぜなら炊飯器を語るツイートはいつも、ほかよりもずいぶんたくさんの反応が得られるからだ。いいねの数といった、数値的な反応だけではない。それぞれが胸にしまっていた炊飯器のエピソードが、広告をきっかけに次々と語られることが多いのだ。

 その理由をすでに私はわかっている。みんないそがしくて、しんどいからだ。仕事にしろ、家事にしろ、あまりに疲れ切った夜。せめてお米だけでもと炊飯器のスイッチを入れた経験を思い出してほしい。あるいは新しい生活がはじまり、料理のスキルがゼロだった頃。炊飯だけはできるだろうと、おそるおそるスイッチを押した経験はないか。家とコンビニとチェーン店しか往復できなかった、なにもかもの余裕が簒奪された日々に、すがるように炊飯器で米を炊こうとする意志が生じなかっただろうか。

 おそらく炊飯器は、日常をささやかなレベルで維持するための防波堤なのだ。手付かずの家電と部屋の中で、せめて炊飯器だけでも使役しようとする、最後の小さな抵抗。私たちを覆い尽くすいそがしさとしんどさに、なんとか流れを変えようと立ち向かうのが炊飯器という存在なのかもしれない。

 そして炊飯器は、そのささやか反抗に必ず応える。どんな炊飯器も、あたたかくて、それなりにおいしいご飯で、あなたがあなたの時間を取り戻したことを祝福してくれるのだ。だから炊飯器は孤独と疲労が滲むSNSで、その存在が好まれるのだと思う。 炊飯器を開けると立ち上る湯気の向こうに、私はいつも人間性の回復を幻視する。そして、米しか炊けないのにすごいヤツだな、と握手したくなるのだ。

文・山本隆博(シャープ公式Twitter(X)運用者)
テレビCMなどのマス広告を担当後、流れ流れてSNSへ。ときにゆるいと称されるツイートで、企業コミュニケーションと広告の新しいあり方を模索している。2018年東京コピーライターズクラブ新人賞、2021ACCブロンズ。2019年には『フォーブスジャパン』によるトップインフルエンサー50人に選ばれたことも。近著『スマホ片手に、しんどい夜に。』(講談社ビーシー)

まんが・松井雪子
漫画家、小説家。『スピカにおまかせ』(角川書店)、『家庭科のじかん』(祥伝社)、『犬と遊ぼ!』(講談社)、『イエロー』(講談社)、『肉と衣のあいだに神は宿る』(文藝春秋)、『ベストカー』(講談社ビーシー)にて「松井くるまりこ」名義で4コママンガ連載中

■シャープさんの「家電としあわせ」シリーズ

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山本隆博
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