旬を大切にした、心にやさしいマロンのデザート
披露宴のメニューは、フランス料理をかなりスリムにしたもの。華美を望まず、心が満たされる料理をお客さまにお出ししたいと願う清子さんらしい選択だった。
【献立】
オマール海老とキャビアのジュレ
カリフラワーのクリーム添え
生ハムで包んだ子羊のロースト
キャラメルバニラの氷菓とマロンのクリームブリュレ
デザートは、旬のマロンを使ったクリームブリュレ。クリームブリュレは「焦がしたクリーム」を意味するフランス語で、蒸し焼きにしたカスタードソースの表面に砂糖をかけて火で焦がしたもの。柔らかく濃厚なクリームに、表面の砂糖が溶けて焦げたパリパリした食感と、香ばしくほろ苦い甘さが心に残るお菓子である。マロンを加えることで、秋の味を楽しむこともできる。旬を大事にされる陛下と美智子さまのお心を、清子さまは受け継がれているのだろう。
陛下は身を乗り出すようにして、愛娘の晴れ姿を見つめられた
食事の途中で、清子さんはお色直しのために退出された。お色直しには、美智子さまの着物を仕立て直した訪問着をお召しになった。「お母さまのお下がりを」と、清子さんが希望されたという。
そのお着物は、美智子さまが皇后となられて初めて外国を訪問された際にお召しになった御所解貝桶紋様(ごしょどきかいおけもんよう)に、小さな松竹梅が一面に染め上げられている訪問着である。さらに美智子さまが即位の礼の翌日に園遊会でご着用になった、白地に金色の「七宝つなぎ」の帯をふくら雀に結ばれた美しい装いであった。
お色直しがすみ、新郎新婦が再び会場に姿を現すと、大きな拍手で迎えられた。陛下が身を乗り出すようにして、愛娘の姿を見つめられている。胸がいっぱい、という表情で拍手を送る美智子さま。ご学友が演奏するハイドンの「ひばり」が流れる中、黒田さんと清子さんは、友人知人のテーブルを回り、一人ひとりと言葉を交わされた。
美智子さまと清子さんは、この日のために、そしてこの日から始まる新しい生活のために、これまでさまざまな家事や心得を伝え学んできたのだ。そして、笑顔で送り出す……。まことに幸せな1日であった。(連載「天皇家の食卓」第25回)
参考文献/『皇后美智子さま 傘寿記念写真集』(朝日新聞出版編、朝日新聞出版)、『写真集 美智子さまのお着物』(文 木村孝、渡辺みどり、朝日新聞出版編、朝日新聞出版)、『天皇家の姫君たち 明治から平成・女性皇族の素顔』(渡辺みどり著、文春文庫)、『美智子さま「こころの旅路」』(渡辺みどり著、大和書房)、宮内庁ホームページ
※トップ画像は、御結婚記者会見に臨まれた紀宮清子内親王と黒田慶樹さん(C)JMPA
文・写真/高木香織
たかぎ・かおり。出版社勤務を経て編集・文筆業。皇室や王室の本を多く手掛ける。書籍の編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『美智子さまから眞子さま佳子さまへ プリンセスの育て方』(ともにこう書房)、『美智子さまに学ぶエレガンス』(学研プラス)、『美智子さま あの日あのとき』、『日めくり31日カレンダー 永遠に伝えたい美智子さまのお心』『ローマ法王の言葉』(すべて講談社)、『美智子さま いのちの旅―未来へー』(講談社ビーシー/講談社)など。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(共著/リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)。