小川洋子『寡黙な死骸 みだらな弔い』1998
病院の秘書室に勤めている私は、同僚とともに汚れた白衣を洗濯場に運ぶ。白衣のポケットには干からびた睾丸に似たプラムの実、球根やキャミソール、コルク、聖書、なすのへた、コンドーム、付けまつげなどさまざまなものが入っている。
『寡黙な死骸みだらな弔い』の5話目に置かれた「白衣」は、この品物の列挙シーンが印象的だ。清潔そうな医師の白衣の中から、妙に生々しく、物語を感じさせる品物が現れる。
読んでいて思わずぎょっとするような感じは、主人公が唐突に口にする台詞によってさらに強まる。
「私、一度でいいから、気管支鏡をのぞいてみたいと思うんです。生きた人間の身体の中をのぞくなんて、わくわくするじゃありませんか」。
本書は、このように日常の中に突如浮上するグロテスクなものを描いた連作短編集だ。
廃墟の郵便局の中で見た無数のキウイフルーツ、老婆がくれる人間の手そっくりの人参、体からはみ出したむき出しの心臓、トラックから路上に散らばったトマト。
世界の片隅で生きる人々の姿を淡々と描いた物語は、静謐な美しさを感じさせると同時に、死や滅びの気配も漂わせる。
ケーキ屋のキッチンで少女が泣いている「洋菓子屋の午後」から、裕福な女性と音大志望の若者との契約関係の終わりを描いた「毒草」まで、それぞれにグロテスクで幻想的な13話はロンド形式で繫がっており、最終話が1話目にリンクする形で終わる。
さまざまな拷問器具が展示された家に主人公が足を踏み入れる「拷問博物館へようこそ」、多幸感と喪失感が胸を打つホテル怪談の「トマトと満月」など、どのエピソードも心地よい怖さに浸ることができる。初期小川洋子の傑作だ。



