今年も猛暑が続いています。暑さを和らげる方法はいろいろありますが、体の中からひんやり涼しくなる簡単な方法といえば、「読書」。おとなの週末を豊かにする、ぞくっとする昭和の傑作小説を、食にまつわるシーンとともにご紹介しましょう。
この記事は、1926年から2025年の100年間に登場した、日本と世界の怖い話の名著88冊をご紹介した朝宮運河・著「怖い話名著88」から抜粋・加筆してお届けします。【前後編の前編】
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内田百閒「東京日記」1938
夏目漱石の門人であった内田百閒は、師の名作『夢十夜』の試みを引き継いで、夢の手触りにみちた小説を数多く手がけた。ただし『夢十夜』が「こんな夢を見た」という一文から始まるのに対し、百閒の小説は夢とも現とも判断がつかない。「東京日記」もそんな作品だ。
大都会の異変を描いた「その一」から始まり、東京各所を舞台にした不思議な日常の断片二十三話が収録されている。
「その六」は、銀座が舞台。店でトンカツを食べていると、あたりで妙な物音がし出して、外で雷が光った瞬間に、他の客が全員獣に変わっていた……という不思議な話。
月の夜に丸ビルが消えてしまったり、富士山が大噴火したりと、とんでもない出来事が次々に起こるのだが、それを伝える筆致はあくまで淡々としており、暗い不安感に満ちている一方で、くすりと笑ってしまうような軽やかさも含んでいる。
百閒の小説はすべて「何とも云われない気持ち」になるものばかりだ。もちろんさまざまな解釈はできるだろうが、百閒文学のよき理解者だった三島由紀夫がいうように、「有無を言わせぬ怪異(そこには思想も意味もない)の精緻きわまる表出」を、怖がったり驚いたりしながら素直に味わうのが望ましい向き合い方だろう。








