梨『自由慄』2024
梨はホラー業界のオールラウンダーである。2022年にモキュメンタリーホラー小説『かわいそ笑』で書籍デビューする以前から、ネット上で怪談記事を執筆、すでに多くのファンを持つ書き手だった。
デビュー後は作家活動と並行して『怪文書展』『行方不明展』など体験型モキュメンタリーともいうべき野心的なイベントや、音楽やお笑いライブの演出、ホラーなバラエティ番組『テレビ放送開始69年このテープもってないですか?』への協力など幅広いジャンルで、恐怖表現の探求を続けている。
『自由慄』はそんな梨の鬼才ぶりがよく表れた自由律俳句×モキュメンタリーだ。
著者が譲り受けた複数の手紙をもとにしたと謳う本書には、窓の外に立つ幽霊についての文章に続いて、短い韻文がいくつも並べられている。
「ブルーハワイの舌で笑うあなたを思い出すような死体でした」
「まだ揺れ続けるハンガー」
「逃げ切れなかったことだけは分かる留守電」
「茶碗蒸しから海老を探す行為が、感触と温度ともに最も近いといわれている」
「自分ひとりだけ叫び声に気付けなかった」
「焼きすぎたマシュマロのただれかたで布団の上に」
静かな不穏さを感じさせる自由律俳句の数々は、それだけでも掌編怪談として成立しているが、続けて読んでいるうちにぼんやりとストーリーが見えてくる。
メディアを問わず梨の作品に常に漂っている死や異界の手触りは、実験精神と恐怖と詩情が絡み合う一冊だ。



