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日本海を眼前にする京都府の北側。そこは内海を囲む歴史深い小さな町。湾内でのカキの養殖で知られ、冬はもちろん日本海のカニづくし。ひと駅先は兵庫県という北西の町、久美浜への旅。温泉にゆっくり浸かり、食べて飲んで、時々鉄道に乗って…。


かぶと山から望む久美浜湾。手前の内海はプランクトン豊富でカキの養殖が盛ん。小天橋が日本海と久美浜湾を隔てている。

のんびり列車に揺られて海の京都へ

京都府北部と兵庫県北東部を走り、日本海側のエリアを結ぶ京都丹後鉄道。そこを走る1両編成の観光列車はのんびりと旅を楽しむには最高の雰囲気。普通運賃のみで気軽に乗れる水戸岡鋭治氏デザインの観光列車「丹後あおまつ号」に乗って久美浜駅を目指します。

京都丹後鉄道「丹後あおまつ号」は予約不要、普通運賃のみで乗車できる観光列車。運行は1日2本(片道)で西舞鶴から豊岡まで走るのは午後便のみ。(最新の運行情報は京都丹後鉄道HPで確認してください)
数々の車両デザインを手掛けてきた水戸岡鋭治氏による天然木を使用したモダンな車内インテリア。ソファ席やカウンター席など様々な席タイプがありゆったりと景色を楽しめる。
丹後神崎駅と丹後由良駅の間にある由良川橋梁ではまるで水の上を走っているかのような絶景が楽しめる。画像提供:WILLER TRAINS(京都丹後鉄道)

久美浜は古くは細川忠興の重臣・松井康之が治めた戦国時代の城下町で、今もあまり変わらない町家の地割や、鍵曲や武者止めといった敵襲に備えた街づくりの面影が残るのが特徴です。江戸時代は幕府の直轄地で代官所が置かれ、明治時代には県庁所在地だったことも。

切妻屋根を持つ久美浜駅の建物は、明治時代の久美浜県庁を再現したもの。お土産やレンタサイクルもこちらで。
かつては料理旅館だったという目抜き通りの三階建ての建物は現在カレー屋さん。近年はUターンやIターンで若い人たちが増え新しいおしゃれな店も増えつつあるそう。

豪商・稲葉本家の屋敷で名物の「ぼたもち」をいただく

この地に鉄道が敷かれたのは昭和4年のこと。町の名士、稲葉家13代当主の稲葉市郎右衛門が私財を投じて久美浜-豊岡間を開通させています。町の近代化の立役者である稲葉家は、400年ほど前に移り住んできた美濃の稲葉一族の末裔といわれており、糀(こうじ)製造や廻船業の交易で莫大な富を築きました。久美浜湾の手前にある目抜き通りが町の中心部で、約700坪の敷地を持つ稲葉一族の邸宅『豪商 稲葉本家』もここにあります。国登録有形文化財でもある吹き抜け天井の見事な母屋ほか、郷土資料やギャラリー、工房などに活用されている邸内を見学することができます。

白壁に板塀が美しい「豪商 稲葉本家」。現在は京丹後市の所有で地元のNPO法人が運営している。
入口を入ってすぐ、地元の物産品や土産物を扱う土間のスペースに続く母屋は、松の梁やケヤキの柱が目を引く吹き抜け天井が見事。

邸内を一通り見学したら奥座敷の喫茶処『吟松舎(ぎんしょうしゃ)』へ。こちらでは稲葉本家にゆかりの深い名物〈ぼたもち〉と丹後名物の〈ばら寿司〉が用意されています。なぜ“ぼたもち”なのか。それは大飢饉の際や明治元年に久美浜県が発足した際に稲葉家が地域の人々にぼたもちをふるまい、また、13代当主の銅像が建てられた際は地域の人々がぼたもちをついて祝ったことに由来するとか。長年手づくりしてきた昔ながらのぼたもちは、つぶあんと、つぶあん入りきな粉の2種類。甘さ控えめの素朴な味わいで、毎日丁寧に炊かれるもち米の食感も絶妙です。

手づくりのぼたもち1個と玉露やコーヒーのセットは570円(税込)~。お持ち帰りは6個入り900円(税込)がお得。
母屋に面した枯山水は仁和寺の桜守でもあった16代佐野藤右衛門の作庭。久美浜湾をイメージし、松の木は天に昇る龍を表現している。
明治期に5年をかけて作られた邸宅は、壁や天井に模様を投影する透かし彫りの欄間や柾目の床柱など贅沢な造りが目を引く。

〈ばら寿司〉はサバを甘く煮付けたそぼろを散らす丹後地方ならではのごちそう。「京丹後エリアでは鯖寿司が有名ですが、鯖を加工した郷土料理としてこういう食べ方もするんです」と教えてくれたのは稲葉本家の支配人・水原倚声(よりひろ)さん。酢飯に稲葉本家特製のサバそぼろ、かまぼこ、しいたけ、大葉に錦糸卵があしらわれたハレの日のお味です。

〈ばら寿司〉の持ち帰り用は750円(税込)。吟松亭では〈本家のばら寿司定食〉1,300円(税込)としてお吸い物、サラダ、ぼたもち1個のセットがいただける。
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おとなの週末Web編集部
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