皇室と関西の私鉄との関係は、1932(昭和7)年に、昭和天皇が近畿日本鉄道(以下、近鉄と称す)の前身である大阪電気軌道に乗車されたことにはじまる。近鉄の沿線には、伊勢神宮をはじめ、正倉院や神武天皇山陵など歴代天皇の陵墓があり、皇室の方々が利用する機会も多い。では、どのような列車に乗られているのか、内装は特別にしつらえたものなのか。近鉄特急を使用したお召列車の歴史をひも解くことにしよう。
※トップ画像は、奈良の薬師寺を背景に走る近鉄特急=1993(平成5)年8月8日、近鉄橿原線(奈良県奈良市・西ノ京~奈良県大和郡山市・九条駅間)
昭和天皇と近鉄
1932(昭和7)年11月、陸軍特別大演習のため関西を訪れていた昭和天皇は、神武天皇山陵への参拝などのため、大阪電気軌道(現在の近鉄)の上本町駅(現・大阪上本町駅)と神武御陵前駅(昭和14年廃止)の間などを乗車された。その後、いわゆる近鉄特急と呼ばれる車両へ乗車したのは、1971(昭和46)年の伊勢神宮参拝のときが最初であった。近鉄にお召列車が運転されたのも、1932(昭和7)年以来となる39年ぶりのことであった。
その後は、1974(昭和49)年、1975(昭和50)年、1979(昭和54)年、1980(昭和55)年、1981(昭和56)年、1984(昭和59)年と7回にわたり乗車しており、使用された近鉄特急は、スナックカー(12200系)、サニーカー(12400系)、16000系であった。なお、香淳皇后は、1984(昭和59)年以外は、昭和天皇とともに同乗されている。
室内の改装と防弾仕様
近鉄では、昭和天皇が乗車する車両を”御料車”と位置づけ、車内を特別なしつらえに改造した。例えば、1974(昭和49)年の乗車時には、宮内庁から“乗車する車両はトイレ付き”で、車内には“食事の準備”ができるスペースを用意して欲しいという要望があったという。当時、最新鋭の近鉄特急のなかから洗面室とトイレを備えた車両が「御料車」として選ばれ、食事の準備には“スナックコーナー”を備えた車両を御料車の隣に連結した。
室内は、16人分の座席と荷物棚(あみ棚)を取りはずし、床には絨毯を敷き、特注の座席とテーブルを配置して“御座所”(天皇、皇后の居間)にしつらえた。“特注座席”などの調度品は、近鉄百貨店が担当した。このほか、車体外板の補強や窓ガラスを強化ガラスに交換するなどして“防弾仕様”に改造した。