猛暑を和らげるぞくっとする本を紹介するシリーズ後編。おとなの週末を豊かにする「読書」のすすめとして、今回は1970年代から2020年代までの、毛色の異なる傑作小説を3冊、食にまつわるシーンとともにご紹介しましょう。
この記事は、1926年から2025年の100年間に登場した、日本と世界の怖い話の名著88冊をご紹介した朝宮運河・著「怖い話名著88」から抜粋・加筆してお届けします。【前後編の後編】
画像/Adobe Stock
宇能鴻一郎「姫君を喰う話」1970
1962年に巨鯨との死闘を描いた「鯨神」で芥川賞を受賞。純文学作家として作家活動をスタートした宇能鴻一郎は、70年代半ばから”わたし……しちゃったんです”という女性一人称による官能小説を量産、ポルノの大家として一世を風靡した。
そんな宇能は60年代から70年代にかけて、特異な怪奇幻想小説を集中的に執筆している。「姫君を喰う話」はその時期の代表作だ。
煙がもうもうと立ちこめるモツ焼き屋で新鮮なシロやタンを味わっていた私の隣に、虚無僧姿の大男が座った。酔った私がモツの舌触りが女性の体を連想させると実体験を交えながら語ると、虚無僧は共感した様子で意外な告白をする。
彼はもともと「滝口の武者、平致光」という平安時代の武者だったというのだ。伊勢神宮に仕える高貴な女性・斎宮の警護を命じられた彼は、姫君の美しさにたちまち心を奪われる。
ある夜、縁の下に男が潜んでいると、頭上から姫君の足が下りてきて、彼の顔を踏みつけた。恍惚となって姫君の足を舐めまわす男。
「かくも美味しいものが、この世の中にあったのであろうか」。恋心をますます募らせた彼は、大胆な行動に出る。
1000年前の男が現代に現れるというおよそ信じがたい話であるが、熱のこもった語り口は虚を実に転じさせ、快楽に溺れて破滅することの甘美さをあますところなく伝えてくる。
マゾヒズムやフェティシズムの世界を、多様な題材で描いた宇能の怪奇幻想小説は、谷崎潤一郎や江戸川乱歩の血統を継いだものといえよう。








