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太平洋ベルト地帯。小学校の社会科授業で習ったことを思い出すワードである。日本の四大工業地帯のひとつ、中京工業地帯のある三重県四日市市〔よっかいちし〕に、国内で唯一”現役”で活躍する「鉄道可動橋」があることをご存知だろうか。可動橋とは、橋と水面の間が狭く、行き来する船舶の航行を橋梁自体が妨げとならないように、橋桁を可動させて航行空間を確保する橋梁のことだ。その仲間にはいくつか種類があり、「跳開式〔ちょうかいしき〕」と呼ばれるタイプが、令和のいまも活躍し続けている。今年〔2026(令和8)年〕で建造から95年。貴重な“鉄道可動橋”の生い立ちに迫ってみたい。

※トップ画像は、JR関西本線の四日市駅から伸びる貨物引き込み線(=側線)に架かる跳開式鉄道可動橋「末広橋梁〔すえひろ・きょうりょう〕」。この写真は、橋桁が可動途中に写したもの=2026年9月5日、三重県四日市市

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「可動橋王」と呼ばれた橋梁技師

可動橋は、日本に限らず様々な国で採用されている架橋方法のひとつで、架橋技術が未熟だった時代に重宝され、その種類は11を数える。橋桁を高い位置に建設することが叶わなかった時代は、橋桁と水面の間は狭く、行き来する船舶の大きさなどに制限を与えていた。そこで、橋桁を可動させて広い空間を確保することで、大型船舶の航行を可能にしたものが可動橋というわけだ。

日本の国土に適した可動橋の導入をいち早く推奨し、その技術を広めた人物がいた。「可動橋王」と呼ばれ、大正時代から昭和のはじめに活躍した橋梁技術者、山本卯太郎〔やまもと・うたろう〕氏が、その人だ。山本氏は、1891(明治24)年に大阪府で生まれ、名古屋高等工業学校(→現・名古屋工業大学)を卒業後に渡米。当時、世界最大といわれた橋梁メーカー「アメリカン・ブリッジ・カンパニー」へ入社し、可動橋の設計・製作と研究に没頭した。

帰国後の1919(大正8)年には、「山本工務所」という可動橋に特化した橋梁設計・製作会社を立ち上げ、複雑な構造をもつ「跳開式橋梁(バスキュール型)」をいくつも手掛けた。可動橋には、跳開式、旋回式、昇開式と3つのタイプがあるが、そのなかでも特に「跳開式」にこだわりをもったのが山本氏だった。その跳開式にも、橋桁の片側だけ跳ね上がる一葉跳開橋と、両側が観音開きのように跳ね上がる二葉跳開橋(例:勝鬨橋=現在は開閉しない)があるが、山本氏の設計は「片開き式」を得意とし、それは「山本式跳開橋」とも呼ばれた。

跳開式は、橋桁を跳ね上げる際に大きな力を必要としたが、山本氏は数学的な解析による橋桁を動かす際の力点と固定される作用点を移動させる技術を考案し、動力負担を軽減させた「鋼索型跳上橋」を実現した。日本で最初に架橋された“山本式跳開橋”の第1号は、1926(大正15)年に東京都荒川区にあった隅田川駅跳上橋〔別名/隅田川可動橋、国鉄(→現JR)隅田川貨物駅の構内に設けられていた〕=鉄道橋で、次いで大阪市此花区にあった正安橋〔しょうあんばし/1999(平成11)年解体〕=道路橋が完成した。

「山本工務所」が手掛けた日本国内にある可動橋のうち、現存する最古のものは名古屋市港区にある名古屋港跳上橋〔なごやこう・はねあげばし、別名/堀川可動橋〕という国鉄・東海道本線の貨物支線に架けられていた鉄道橋だ。現在この橋は、1985(昭和60)年に現役を退き、橋桁を上げたまま保存されている。今なお現役の可動橋は、三重県四日市市にある「末広橋梁」(鉄道橋)のみだ。このほか、1929(昭和4)年に完成した東京港貨物線に架けられた古川可動橋(芝浦跳開橋)は、当時としては「東洋一の可動橋」と称賛された。

山本卯太郎氏は、1926(大正15)年から1931(昭和6)年までの5年間に計7つの可動橋を日本国内に築いたほか、大日本帝国朝鮮(日本統治時代の朝鮮)時代の1931(昭和6)年には、釜山港外洛東においても可動橋の設計・製作に携わった。その後は母校で教鞭をとるなどしたものの体調を崩し、1934(昭和9)年に出張先の神戸市内で倒れ、42歳という若さでこの世を去った。

日本の「可動橋王」と呼ばれた山本卯太郎氏=所蔵/JLNA
しゅん工当時の古川可動橋(芝浦跳開橋)を描いた絵葉書より=所蔵/JLNA
山本卯太郎氏が設計した古川可動橋(芝浦跳開橋)を渡る東京港貨物線。この可動橋は日の出ふ頭と芝浦ふ頭の間にあり、1985年(昭和60)年の路線廃止まで現存していた=1935(昭和10)年頃に撮影、東京都港区、所蔵/JLNA
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現役の“跳開式”鉄道可動橋
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