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東京の隅田川(全長約24km)には、人が渡れる橋が27もある。上流側から数えて26番目が「勝鬨橋(かちどきばし)」である。“もんじゃ焼き”で有名な「月島」が近い「勝どき」と、“場外市場”のある「築地」とを結ぶこの橋は、行き交う大型船舶の航行に合わせて橋の中央部が「ハ」の字に跳ね上がるのが特徴だった。現在では、二度と開閉することのない「幻の跳開橋(ちょうかいきょう)」。この悲運の橋に思いを馳せてみてはいかがだろうか。

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月島は埋め立てできた「人工島」

今でこそ、タワーマンションが立ち並び東京有数の住宅地となっている月島一帯であるが、1894(明治27)年以前には存在しない土地であった。なぜならば、埋め立てでできた人工島だからだ。当時はまだ東京に港はなく、隅田川の河口も越中島のあたりにあった。東京湾はもともと遠浅の地形であったため、水深も浅く、大型船舶の航行には不向きであった。

このため、1892(明治25)年から東京湾澪浚(みおさらい=水深を確保するために海底の土砂をさらう)工事が始まり、その際に発生した土砂を埋め立ててできた人工島が「月島」となった。この島は正式には「月島1号地」と呼ばれた。1896(明治29)年には、水上交通として「月島の渡し」が開設され、対岸の築地との間を「渡し舟」が行き来するようになった。

その後も、現在の都営大江戸線勝どき駅のある辺りとなる「月島2号地」が完成し、この時、築地側にあった旧京橋区(現在の築地1丁目など)の住民有志によって「勝鬨の渡し」が1905(明治38)年に開設されるに至った。

かちどき橋の資料館前の晴海通りに設置されている「かちときのわたし」の碑。1905年から1940年の勝鬨橋開通までの35年間にわたり、築地と月島の地を結んでいた「勝鬨の渡し」。渡船の年間利用者は一千万人もおり、当時の東京市が年額15万円を投じて無償運航していた=2024年4月4日、築地6丁目20番地先

日露戦争に勝利した年に「勝鬨の渡し」が開設

一般的に橋の名は、その土地の名を冠することが多い。橋の名の語源となった「勝鬨の渡し」が開設された1905年は、日露戦争に勝利した年でもあった。「かちどき」とは、その時の歓声「勝鬨の声をあげる」という表現から引用したものだといわれている。現在も受け継がれる「勝どき」の地名も、この由来に起因する。

ちなみに、勝鬨橋の「鬨」の文字は当用漢字や常用漢字に含まれていないため、駅名や地名には平仮名が用いられ、「勝どき」としている。

隅田川の月島側下流川面から築地側を見たところ。「ハ」の字に跳ね上がる跳開橋を支える左右2つの橋脚は、内部が空洞になっており、跳ね上がった橋の裾部分が収まる構造になっている。写真の左手(陸地)には築地場外市場が広がる=2017年10月24日(チャーター船より撮影)

最初の計画は明治時代

「可動橋」として橋を建設する計画は、1911(明治44)年にまで遡る。埋め立て当時の月島は工業用地とされており、運河(この時点では未だ隅田川の河口は上流にあった)に面した土地には造船所をはじめ多くの工場や倉庫が建設された。このため、物資輸送や新造船の航行など大型船舶の需要が見込まれることから、その航行が可能な可動橋が選定されたのであった。この橋の全橋長は約218m、可動橋長は約65mであった。この時の架橋位置は、現在の位置よりも上流側として計画されていたという。

しかし、1915(大正4)年になると欧州大戦(第一次世界大戦)による鉄価高騰のあおりを受け、この第一次計画は見送られ、実現には至らなかった。

第一次計画案に添えられたパース画。月島は工業用地として埋め立てられたこともあり、明治期の計画段階から大型船舶の航行を意識した「跳開橋」として設計が行われた

第二次計画は昇開橋

1919(大正8)年になると再び建設計画が起案され、架橋位置は現在地へと見直され、橋の構造は同じく中央部を可動橋であったが、その種類は「昇開橋(リフト式)」に改められた。この計画もまた、財政難等を理由に見送られた。

図中に”架橋位置”を示す「第一次計画位置」、「決定位置」の文字が見て取れる。この地図には「都電月島線(1923年開通)」が描かれていることや、現在の晴海通りにあたる震災復興道路(幹線第四号/当初は「歌舞伎通り」と呼んだ)も記載されていることから1925(大正14)年以降の既製地図に書き加えられたものと推測する。「決定位置」の築地側が道路と接続していないが、単純な記載ミスであろう
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帝都復興のシンボルにはなれなかった ...
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