「おとなの週末Web」では、食に関するさまざまな話題をお届けしています。「『食』のクイズ」では、三択形式のコラムで読者の知的好奇心に応えます。第15回のテーマは「食中毒」。年間を通して一定の発生がありますが、梅雨を迎え、…
画像ギャラリー「おとなの週末Web」では、食に関するさまざまな話題をお届けしています。「『食』のクイズ」では、三択形式のコラムで読者の知的好奇心に応えます。第15回のテーマは「食中毒」。年間を通して一定の発生がありますが、梅雨を迎え、本格的な夏に向かう季節は湿度や気温の高さから細菌性の食中毒では増加傾向がみられます。冬は、ウイルス性のものが、多くなるといわれています。さて、感染伝播経路として「空気感染」の恐れがある「食中毒」とは……。
ほとんどが経口感染や接触感染だが……
【問題】
2022年3月、国立感染症研究所が、新型コロナの感染経路として、それまで飛沫感染と接触感染だけを挙げていた姿勢を一転させ、「エアロゾル感染」(いわゆる「空気感染」)があるとの見解を初めて示し、話題となりました。これは、世界保健機関(WHO)をはじめとする世界の動向に沿うもので、これにより日本のこれまでのコロナ対策が見直される可能性が出てきました。
さて、食中毒の中で菌やウイルスを原因とするものは、ほとんどが経口感染や接触感染によるものですが、日常で空気感染するケースがあると考えられているものがあります。それは次のどの食中毒でしょうか?
(1)ボツリヌス菌
(2)ノロウイルス
(3)O(オー)157
(参考)
[1] 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染経路について(国立感染症研究所)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/11053-covid19-78.html
答えは次のページ!
二次感染の恐れ
【答え】
空気感染する恐れがあるのは、(2)のノロウイルスです。
ノロウイルスは胃腸炎を引き起こし、腹痛、下痢、嘔吐などの症状が出ます。飲食物(特に多いのがカキなどの二枚貝)からの経口感染が多く、感染者の便や嘔吐物からの二次感染も起こります。空気感染する可能性があるのは、嘔吐物などの処理が不十分だった場合に、ノロウイルスを含んだ乾燥した埃などが舞い上がり、周囲の人がそれを吸い込んでしまうようなケースです(塵埃感染)。
(1)のボツリヌス菌の感染経路は、主に飲食物からの経口感染です。そのほか傷口から感染するケースもあります。ボツリヌス菌は「酸素(さんそ)があると増えることのできない偏性嫌気性菌(へんせいけんきせいきん)の仲間」(国立感染症研究所のホームページより)で、ビン詰、カン詰、容器包装詰め食品などを原因とする食中毒が発生しています。初期に胃腸炎症状があり、徐々に神経麻痺症状があらわれ、死に至ることもあります。特に1歳未満の赤ちゃんは、ハチミツを食べて乳児ボツリヌス症にかかることがあるので注意が必要です。
(3)の腸管出血性大腸菌O157が出す「ベロ毒素」は、大腸をただれさせ、血管壁を破壊します。1996年には大阪府堺市で約9500名にのぼる集団食中毒が発生し話題となりました。主な症状は下痢や下血で、死亡例もあります。牛などの家畜が保菌している場合があり、食肉からの経口感染のほか、二次感染により汚染された野菜や井戸水などによる食中毒事例もあります。
(参考)
[2] ノロウイルス|「食品衛生の窓」(東京都福祉保健局)
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/micro/noro.html
[3] ボツリヌス菌|「食品衛生の窓」(東京都福祉保健局)
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/micro/boturinu.html
[4] ハチミツを与えるのは1歳を過ぎてから(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000161461.html
[5] 腸管出血性大腸菌O157|「食品衛生の窓」(東京都福祉保健局)
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/micro/o157.html
防ぐには、マスクや換気が必要
食中毒の原因物質は、他にもフグやキノコなどの自然毒、寄生虫、農薬などの化学物質などさまざまあります。その中で、菌やウイルスによる食中毒の場合、その感染経路には次の4つがあります。
(1)経口感染:病原体を含む飲食物を摂取することにより感染します。
(2)接触感染:病原体がついたドアノブや手すりなどに触れた手で、鼻や口などを触ることにより感染します。
(3)飛沫感染:感染者の咳やくしゃみなどで飛散した飛沫を吸い込むことにより感染します。一般的な風邪やインフルエンザがこれに当たります。飛沫は水分を含み重いためすぐに落下し、通常その影響範囲は2メートル程度と考えられます。
(4)空気感染:病原体が乾燥状態でも感染性をたもったまま埃などとともに空気の流れに乗って拡散し、それを吸い込むことにより感染します。飛沫感染に比べ、広範囲に感染が広がります。
食中毒の場合、多くは経口感染か接触感染ですが、空気感染もするとなると、対策の仕方が変わります。空気感染を防ぐためには、マスクや換気が必要となります。
ちなみに前述のコロナウイルスの場合、日本ではこれまでは飛沫感染を防ぐためにソーシャルディスタンス(2m以上)をとる、衝立(ついたて)を立てるなどの対策が推奨されてきました。しかし空気感染に対しては、これらの対策では不十分です。それどころか、衝立により空気の流れが阻害されて感染リスクが増加する、などの弊害が生じることもあり得ます。
菌やウイルスから身を守るのは自分自身しかありません。菌やウイルスの性質や感染経路などに関する正しい知識を身に付け、適切な対策をとることが大事です。
(参考資料)
[6] 令和3年食中毒発生状況(概要版)p23(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000913577.pdf
出題:三井能力開発研究所代表取締役・圓岡太治
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