かつて「偏差値29」から東大理科二類に合格した伝説の東大生がいました。杉山奈津子さんです。その日から十うん年……現在は、小学生から高校生までを指導する学習塾代表として、心理学から導いた勉強法を提唱しています。その杉山さんが、受験生を持つ親に贈る「言ってはいけない言葉」と「子どもの伸ばす言葉」。近著『東大ママの「子どもを伸ばす言葉」事典』から一部を抜粋し、入学試験シーズンを前に集中連載でお届けします。
最初から「無理」と決めつけることは、子どもの可能性を潰す
子どもに対して、「あなたには無理」だとか、「あなたにはむずかしい」という否定的な言葉で、何か行動をあきらめさせようとするのは誤りです。
最初から「むずかしい」と決めつけることで、子どもの可能性を潰してしまうことがあります。また、人間は、自分の行動は自分で決めたいという「心理的リアクタンス」という本能が備わっています。つまり、「ダメだ」と言われたら、反発心が生まれ、余計やりたくなるわけです。
たとえばですが、子どもが、「医師になりたい」と言い出したとします。しかし、家には私立の医学部に入れるだけのお金の余裕は到底ありません。国立大学ならば、どの学部でも学費は同じなので負担は軽くなりますが、子どものほうはそこまでの成績が伴っていないとしましょう。
このとき、親が、「今の学力じゃ国立は無理だ」とか、「医師はやめなさい」と言うのはとても簡単なことです。しかし、そう言われたところで子どもはすんなり納得しないでしょう。
しかも、人生においてやりたいことをやれなかったという後悔は、ずっとついて回ります。その後、ことあるごとに、親をうらむことになるかもしれません。
子どもの思いを、まずは肯定する
まずは、「親としてあなたが医師の道に進むのは、とても立派なことだと思っている」ということを伝え、相手の思いを肯定すべきです。
そのあとで、「うちには私立の医学部に行かせるお金がないのだけど……」という事実を切り出し、「医師になるためにどうすべきか」という話をします。すると子どもは自分から、「じゃあ自分は国立大学の医学部に受かるように勉強をもっと頑張るよ」と、言ってくるかもしれません。
もし、そこまで勉強を頑張れる熱意が出てこないならば、「医師じゃない別の形で医療にかかわりたい」など、ほかの方向の選択肢を考えるはずです。
そのように自分で行動を決めたならば、最初に考えていたものとは違う道を選ぶことになったとしても、納得せざるをえません。勉強をするにしても、自分で努力すると決めたわけなので、「国立大学の医学部に受かるくらい、一生懸命勉強しなさい」と親から命令されるより、やる気が出るはずです。