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ステージでも、CDやレコードと同じキーで

努力家という点では彼女の魅力のひとつである歌に於いても同様だ。歌い手には固有のキーがある。上限のキーを半音上げたり、下限のキーを半音下げたりするのは、並大抵のことではない。キーが広がれば、より歌をアッピールでき、表現力が上がるのだ。その両方、上限のキーを半音上げ、下限のキーを半音下げることを中島みゆきは30歳過ぎてからやってのけた。

このことに関して、かって中島みゆきは性差別に当たるのでここでは記せないが、信じられないほどの大胆な発言をぼくに訊かせてくれたことがある。それは彼女の本物のアーティストであることの執念を感じさせるものだった。

この執念はステージでも結実している。かなりのシンガーは高いキーの歌をレコーディングでは何とか歌い切る。それはレコーディング現場では、パンチイン・パンチアウトと言って歌唱の編集も出来るからだ。が、ステージでは1曲を歌い切らなければならない。結果、そういった曲は半音下げて歌うことも多い。手抜きでは無いが、高音部の声を出し切れなかった時の対策なのだ。しかし、中島みゆきはそういった安全策は選ばない。ステージでもきちんとCDやレコードと同じキーで歌うのだ。

2020年1月、中島みゆきは“ラストツアー”と銘打った全国ツアーを開始した。計24公演の予定だったが、新型コロナのために8公演のみであとは中止となった。ぼくにとっては妖精のように思えた少女だった中島みゆきももう70歳。今後は不定期開催でライヴを行うという噂もあるが、本人からの発表はない。これは個人的な推測だが、“完全”をファンに提供できにくくなったので、大規模ツアーは行わないという意味ではないかと思っている。

中島みゆきの名盤の数々

岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。最新刊は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。

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