一流アスリートには常に優秀なトレーナーが寄り添います。近年はトレーニング理論が発達し、プロアスリートやオリンピック・メダリストはプロトレーナーから的確な指導を受けるのが常識。理論的背景のない我流のトレーニングでは、厳しい…
画像ギャラリー一流アスリートには常に優秀なトレーナーが寄り添います。近年はトレーニング理論が発達し、プロアスリートやオリンピック・メダリストはプロトレーナーから的確な指導を受けるのが常識。理論的背景のない我流のトレーニングでは、厳しい競技の世界で勝ち抜けないからです。自学自習が勉強時間の大半を占める受験も同様です。自学自習のやり方で学力に大きな差が出るのに、ほとんどが生徒自身に任されて我流で行われているのが実情です。「受験は競争、受験生もアスリート」。トレーナー的な観点から、理にかなった自学自習で結果を出す「独学力」を、エピソードを交えながら手ほどきします。名付けて「トレーニング受験理論」。その算数・数学編です。第6回のキーワードは“シャッフル”すること―――。
教科書と同じなのに…
中高一貫男子校で「深海魚」状態から浮上を果たし、現役で私大医学部に合格したE君。
E君は中学入学後、学校の勉強についていけず、中学3年に上がる時点では、成績は学年で下位20位以内と低迷していました。ところがその学校では塾を推奨していなかったため、E君はなんとか成績を上げようと一人でもがき苦しんでいました。しかし中学3年生になり、内部進学が危うくなってくると、ついに悲鳴を上げ、「塾に通わせてほしい」と泣いて頼んできたとのお母さんからのお話でした。
どの科目も低迷していましたが、とくに数学の成績を上げるのが急務でした。その学校では、月に1回試験があります。数学の授業では、難易度が高く、膨大な量の問題を課されるため、1ヶ月分とはいえかなりの勉強量が必要となります。
筆者の塾に入塾後、数回の試験では、試験範囲の勉強を一通り終わらせることで手一杯でした。それでもじわじわと成績は上がり、数か月後の試験では、試験範囲を一周り終え、解けなかった問題をもう一周り復習することが出来るまでになりました。その試験ではE君も結構点数が取れるのではないかとの期待があったようですが、期待ほどの点数ではなく、E君に少し落胆の色が見えました。
私「今回はどのような問題で点を落とした?」
E君「教科書の問題とほとんど同じ問題が出ていたのに、それを落としたのが悔しいです。」
私「どうしてその問題が解けなかったの?」
E君「勉強したはずなのに、試験のときはまったく解き方が思い浮かびませんでした。」
そのような結果はある程度予測できていました。なぜなら、同じような経過をたどる生徒たちがそれまでにもいたからです。
想定外の脳のはたらきが、障壁に
教科書や教科書に準じる問題集では、学習すべき事柄が順序だてて並べられています。そのため、その順番にしたがって問題を解くと、どのような定理や公式を使って、どのように解けば良いのかが分かってしまいます。したがって問題の配列が重要なヒントとなりますが、試験ではそのヒントがありません。
また、脳は無意識下で、問題とは無関係のさまざまな周辺情報を含めて記憶します。そのため、テストで問題だけが切り離されて出されると、教科書とほとんど同じ問題なのに、「初めて見る問題」に見えることがあります。
このような理由で、勉強したはずの問題が試験で解けない生徒が出てきます。
このような状態になるのは、勉強したことが学力として定着していないからです。
学力を定着させる“シャッフル”
前述のような問題を解決する学習法として、「問題の切り取り」と「シャッフル・トレーニング」が有効です。
(1) 問題の切り取り
問題を解くときは、問題文以外が見えないように、別のノートや紙で隠して解きます。これによって、不必要な情報を頼りに問題が解けてしまうことを防ぎます。
できれば問題をコピーして、コピーを1問1問ハサミで切り取り、ノートに貼り付けて解くと効果的です。ノートに問題を書き写すという方法もありますが、少し時間がかかります。
(2) シャッフル・トレーニング
新しい単元を最初に学習するときには、テキストの順序通りに解き進めるのが効果的ですが、その単元を一通り学び終え、演習して定着を図るときには、ランダムな順序で問題を解くのが効果的です。これにより、問題の配列によって解き方が分かってしまうのを防ぎます。
E君には、問題をすべてコピーして、ランダムな順序でノートに貼り付け、それを解くという試験勉強をしてもらいました。その結果はすぐに出ました。一度解いた問題と類似の問題が試験で解けないということはなくなり、それ以降の試験では、平均点を上回る成績を取れるようになりました。
なお、このシャッフル学習法は、数学だけでなく暗記科目でも有効です。一度覚えたことをランダムな順序で確認することで、記憶の定着が高まります。E君はこの方法で、暗記科目でも成績を上げました。
圓岡太治(まるおか・たいじ)
三井能力開発研究所代表取締役。鹿児島県生まれ。小学5年の夏休みに塾に入り、周囲に流される形で中学受験。「今が一番脳が発達する時期だから、今のうちに勉強しておけよ!」という先生の言葉に踊らされ、毎晩夜中の2時、3時まで猛勉強。視力が1.5から0.8に急低下するのに反比例して成績は上昇。私立中高一貫校のラ・サール学園に入学、東京大学理科I類に現役合格。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。大学在学中にアルバイト先の塾長が、成績不振の生徒たちの成績を驚異的に伸ばし、医学部や東大などの難関校に合格させるのを目の当たりにし、将来教育事業を行うことを志す。大学院修了後、シンクタンク勤務を経て独立。個別指導塾を設立し、小中高生の学習指導を開始。落ちこぼれから難関校受験生まで、指導歴20年以上。「どこよりも結果を出す」をモットーに、成績不振の生徒の成績を短期間で上げることに情熱を燃やし、学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて難関大学に現役合格した実話「ビリギャル」並みの成果を連発。小中高生を勉強の苦しみから解放すべく、従来にない切り口での学習法教授に奮闘中。