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圃場で見た「N68‐411」

原料開発研究所の訪問では、以上のようなことがより理解できるために、穂発芽した大麦の穂の実物を見て、穂発芽がビールの品質に影響することを示す実験を観察したほか、「溶けやすさ」を実感する体験もできた。

通常の麦芽と、穂発芽した大麦で製麦した麦芽を使って、それぞれ製造した麦汁の色を見る実験は顕著だった。穂発芽したものの麦汁は通常のものより、色がかなり濃いのだ。「通常のビールより、味わいを阻害し、色味がそもそも全然違うので、これだとヱビスや黒ラベルには使えないんです」(木原主任研究員)

左が穂発芽大麦麦汁、右が通常大麦麦汁(提供画像)

このあとは、研究所を出て、周囲にある研究用の圃(ほ)場へ。そこには、実際の「N68‐411」が育っていた。圃場に近接して、大麦などを一時貯蔵する保管施設のサイロや、製麦施設が並んでいる。

サッポロビールが開発した大麦「N68‐411」

「原料から新たな商品価値を提案するのが原料開発研究所。新たな取り組みとして、気候変動に適応した品質の開発に注力していく」(保木所長)

日本の麦芽輸入量は、国別でみると、カナダやオーストラリアが多い。サッポロビールは北海道をはじめカナダ、オーストラリアの3つの産地でも育種を行っている。今後は、各地での栽培に適応した大麦に、この「N68‐411」の特性を取り入れる育種を進めていく。

穂発芽の品質への影響を説明する牧本梨奈研究員。フィールドマンでもある

2030年までには気候変動に適応するための新品種(大麦、ホップ)を登録出願し、35年までに国内で実用化、50年までにこの新品種のほか新たな環境適応性品種を開発し、国内外での実用化を目指すという。

「原料からビールをもっと美味しくしたい」。サッポロビールの原料開発研究の現場からは、創業時から脈々と続くこんな純粋な思いが改めて伝わってくる。

文・写真/堀晃和

「N68‐411」の畑で。左から牧本研究員、木原主任研究員、七森理仁主任研究員
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おとなの週末Web編集部 堀
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