「4畳半フォークとは、なかなかうまいネーミング」
「神田川」に世間が決定的フレーズを与えた。いわく、“4畳半フォーク”だ。
“4畳半フォークなんて言われて、当時はもちろん嫌だったけれど、なかなかうまいネーミングをするものだなと、少し思ったりもした。でも、そんなことを考えている暇はまったく無かった。忙しかった。コンサート、アルバム制作などなどプライベートな時間はまったく無かった。実際、レコードを出せば売れるし、コンサートはいつも超満員。批判の声が直接届くなんてなかったね”
後に南こうせつは、こうぼくに語った。
当時の日本のことを思い起こすと、70年安保闘争の挫折、ベトナム戦争の落とした影、オイルショック…。当時の若者が欲していたのは優しさや癒しだった。心の奥深くにあり、 見えないけど確かに感じる暗いシコリ。それを少しでも溶かしてくれる楽曲のひとつが「神田川」だったのだ。大きな声で皆で合唱するのでなく、ひとりになった時、ふと口ずさめる歌。それが「神田川」だったのだ。
1975年に解散
「神田川」を大ヒットさせたかぐや姫だが、それから間もない1975年4月に解散してしまう。
“今から思えば「神田川」大ヒットの 重圧だった。本当はもっともっと様々なサウンドや音楽を作りたかったのに、世間が求めるのは「神田川」だった。忙し過ぎて充電期間も消えてしまった。メンバー全員、ひとりひとり好きなことをやりたいと思う気持ちがどんどん強くなって行った”
こうして南こうせつのソロ活動がスタートした。
岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。最新刊は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。