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アメリカのスポーツ評論の草分けとして「20世紀の顔」に

「グラントランド・ライスは、1年に400日も旅をする。きのうノース・カロライナの小さなアマ選手権会場にいたかと思うと、きょうはウォルター・へーゲンとプロの地位向上について話し合い、明日はモントレー半島に出向いて、詩情豊かなコース讃歌の名文をものする。誰にも彼の真似はできないだろうね。まるで惚れ抜いた女性を追いかける一途な青年のようだもの」

ゴルフの化身ともいえるボビー・ジョーンズまでが、彼には脱帽だった。当然、オーガスタ・ナショナルの設立から理事として招かれ、設計者アリスター・マッケンジーの補佐役として貴重な助言を惜しまず、当初は6月に行う予定だった「マスターズ」の開幕に猛反対、

「大リーグの開幕に歩調を合わせてこそ、アメリカン・ドリームの二大ページェントになるではないか。テーマは春、心が弾むイメージがなければ、ただのツアーに堕落するだけ。何もマスターズなど開催する必要もない」

頑として譲らず、彼の高邁な見識によって見事メジャーに昇華したのである。オーガスタに君臨して絶対的院政を敷いたクリフォード・ロバーツも、彼なしに成功はあり得なかったと語っている。

ライスが生涯にわたって書き連ねた膨大なコラムに、しばしば「アマチュアリズム」の文字が登場する。彼は次のように警告し続けた。

「多くのアマチュアは、プロの真似をしてゴルフを覚える。やがて、マナーの悪いプロがゴルフを壊すだろう。つい数十年前まで、ゴルフはアマチュアだけの楽しいゲームだった。やがて経済的恩恵を甘受するプロがわがもの顔でゴルフ界にのさばり、自分たちの流儀をアマに押しつけようとする。だが、ゴルフにおける主役はプロに非ず、アマチュアこそが王様なのだ」

かつて「ニューヨーク・タイムズ」が編集した『20世紀の顔』に選ばれた彼の肩書も、「アメリカにおけるスポーツ評論の草分け」だった。その中に彼の次なる文章が引用されている。

「ゴルフは2割がテクニック、8割が他の要素で成り立つゲームである。その要素とは、哲学、ユーモア、悲劇、ロマンス、メロドラマ、友情、思いやり、悪態、呪い、気の利いた会話、哄笑などが挙げられる。2割の世界で終わる人にゴルフを語る資格はない」

そこで、高度成長時代に急増した2割人種に対して、私はひそかに「バブル・ゴルファー」と命名した次第。

(本文は、2000年5月15日刊『ナイス・ボギー』講談社文庫からの抜粋です)

夏坂健

1936年、横浜市生まれ。2000年1月19日逝去。共同通信記者、月刊ペン編集長を経て、作家活動に入る。食、ゴルフのエッセイ、ノンフィクション、翻訳に多くの名著を残した。毎年フランスで開催される「ゴルフ・サミット」に唯一アジアから招聘された。また、トップ・アマチュア・ゴルファーとしても活躍した。著書に、『ゴルファーを笑え!』『地球ゴルフ倶楽部』『ゴルフを以って人を観ん』『ゴルフの神様』『ゴルフの処方箋』『美食・大食家びっくり事典』など多数。

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おとなの週末Web編集部 今井
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