魚屋でするめいかを買うときの「小ワザ」
3月は日本海に面する富山や兵庫の海からは「ほたるいか」が揚がり、魚屋の店先には「やりいか」が並び始めます。やりいかは秋冬から出回りますが、産卵の季節は冬から春にかけて。そのため春先のやりいかは大きく成長しており、肉厚です。
八百屋の店先には「新」のつく野菜が並びます。新じゃがいも、新たまねぎ、そして新ごぼう……。通年出回る根菜たちですが、新ものが出回り始める春先は、いずれもやわらかく、みずみずしい。こうした出会いも春ならではです。
いっぽうで、卒業などで「別れの季節」とも言われます。魚屋や八百屋の店先でも、「別れ」と「出会い」が交錯する時期でもあります。オイラの大好きな「いか」を例にしても、別れと出会いがあるのです。 秋から冬の間、ずっと楽しんできた「するめいか」は春の声を聞くころ、店先から姿が消えていきます。
もちろん、東西に長い日本列島ゆえ、するめいかにまったく出会えないわけではありません。ただ、塩辛にできるような大きな肝を持つするめいかには、秋までまず出会えません。つまり、手作りの塩辛とは、しばしのお別れです(泣)。
ですが、別れを惜しむ気持ちも大事にしたいもの。たとえば、「するめいかの手作り塩辛とはお別れしたくない……」という方には秘策もあります。商店街の魚屋でオイラがお願いする小ワザは、「いかの肝、余っていたら何個かください」というもの。丸のままのするめいかを買うときの声がけです。
つまり、「肝が小さければ、その分、数を集める」というジジイの知恵です。するめいかは、刺身用にさばいて売られているものもあり、繁盛している魚屋では、はずした肝をとってある店もあるからです。もちろん、サービスなのでタダですね。
これからの季節、するめいかに出会ったら、肝リクエストをしてみてはいかがでしょうか。普段から顔なじみの魚屋で「塩辛用ね。アイヨ」と、威勢のいい声が返ってきたら儲けものぐらいに考えておきましょう。
これが、スーパーやデパ地下の鮮魚売り場なら、「肝を欲しがる不審者」=キモいやつ、と判断される可能性もあります。なので、そこは自己責任でお願いいたします。
…つづく「「こんなうまいものがあるのか」…20歳の青年が、オホーツクの旅で《ホタテ貝の刺し身》に感動し始めた「意外な商売」」では、宮城県三陸のひとりの養殖家が、うまいカキを探しに世界中を旅した話を明かします。
文・写真/沢田 浩
さわだ・ひろし。書籍編集者。1955年、福岡県に生まれる。学習院大学卒業後、1979年に主婦と生活社入社。「週刊女性」時代の十数年間は、皇室担当として従事し、皇太子妃候補としての小和田雅子さんの存在をスクープ。1999年より、セブン&アイ出版に転じ、生活情報誌「saita」編集長を経て、書籍編集者に。2018年2月、常務執行役員パブリッシング事業部長を最後に退社。