年間700杯ペース、会社勤めをしながらラーメン店を回る
「TRY」の審査員は情報交換をしながら、自分の足と舌と懐を使って食べ歩いている。しかも、新店・名店の両分野を審査する青木さんたち審査員5人は、「しょう油」や「みそ」などの複数部門を受け持つ。近年は年間約700杯ペースという青木さんは、会社勤めをしながら、どんな風に食べ歩いているのか。
「夜の時間帯の仕事なので、お昼にエリアを定めて2軒ほど食べることが多いです。夜も行きますが、最近は昼だけの営業や21時までくらいのところが多く、仕事後は1軒程度のペース。週末には何軒も回ります。ラーメン好きの友人たちとシェアして食べることもあります」
コロナ禍を経験したこともあり、夕飯は自炊も増えた。
「体重は落ちましたね。以前は夜にラーメンを何杯も食べていましたが、今のペースは体のことを考えると良いと思います」
馴れ合いや忖度は一切なし、審査で大切にしている「主観と客観のバランス」
最近はSNSで臨時休業や行列などの情報も得やすくなった。
「皆さん、新店の情報を得るのが早いですね。行列がすごくて断念することもありますが、味はもちろん、オペレーション(調理や接客の様子)も見たいので、開店の2週間後からひと月後くらいにも行きます。新店は、開店当初は味が安定していないこともあるので、何度か食べに行くこともあります」
青木さんが「TRY」の審査で大切にしているのは「客観と主観のバランス」だ。
「作り手の意図を考えることは大切にしています。その上で自分の好みを加味しながら審査しています」
「TRY」は“業界最高権威”と謳っている。青木さんは声を大にして言う。
「当然、その権威は受賞店にあります。『TRY』に載らなくても、いいお店はたくさんあります。読者は好きなお店がなくて腹が立つこともあるでしょうし、お店の方が『なんでうちが入っていないのか』とおっしゃることも理解できます。そうしたご意見も甘んじて受けなければいけないと思います。それでも僕たちは信念を持ち、馴れ合いや忖度は一切なく審査しています。推したお店がランキングに入らない時は残念ですが、そうした審査を経ているからこそ各人の審査結果が楽しみなんです。読者の方々が『TRY』をきっかけにラーメン店に行ってくれることが、一番うれしいです」
人生で、ここまでのめり込めるものと出合った青木さんが心底羨ましい。
■青木誠(あおき・まこと)
1977年1月、東京都板橋区生まれ。ラーメン以外の趣味は音楽やアニメ。ずっと好きなバンドはナンバーガール。若い頃はDJも経験。「TRY」入賞常連店の『らあめん元 〜HAJIME〜』(板橋区)の店主・内田元さんは中学校の同級生。
文/市村幸妙
いちむら・ゆきえ。フリーランスのライター・編集者。地元・東京の農家さんとコミュニケーションを取ったり、手前味噌作りを友人たちと毎年共に行ったり、野菜類と発酵食品をこよなく愛する。中学受験業界にも強い雑食系。バンドの推し活も熱心にしている。落語家の夫と二人暮らし。