×

気になるキーワードを入力してください

SNSで最新情報をチェック

世代交代。父の定位置で麺を上げる重圧

現在、「ふくちゃん」の本店を切り盛りしているのは順伸さんの長男であり、三代目の伸一郎さん。頑固一徹の職人であった父は、息子に対しても一切、ラーメン作りを教えません。「見て覚える」という昔ながらの職人のやり方だったため、伸一郎さんは見よう見まねでラーメン作りを覚えました。

とんこつラーメン特有の臭みのないマイルドな味が「ふくちゃんラーメン」のラーメン

そんなある日、店を仕切っていた父・順伸さんが突如倒れました。世代交代が最悪の事態で訪れました。その2日後、悩み抜いた伸一郎さんは「自分が釜前に立つ」と決意。姉たちは「伸一郎なら大丈夫」と信じ見守りました。そして伸一郎さんは、カウンター向かいの右奥で、麺をゆで、ラーメンを作り始めました。

伸一郎さんによると、「父の隣で10年近く一緒にやってきましたが、突如、父の定位置でやることになり、ものすごい重圧でした。目の前にいるお客さまは、長く通われている常連さんばかり。お客さまの顔を見ることすらできないほどの緊張でした……。最初の1~2年は常連さんからお叱りの言葉もいただきました。続けていくために、自分ができることはなんだろうと真剣に考えました」―。

定番のニンニククラッシャー。その先駆者だった

そして、伸一郎さんが出した答えは、「そのお客さまのために、一杯ずつ思いを込めてラーメンを作ること」でした。「ふくちゃんラーメン」の麺は昔ながらの博多の麺を使用しています。麺は低加水のため、濃厚なスープを吸い込み相性は抜群です。スープに使われる食材は創業以来、豚頭のみ。本来単一の食材のみで作られるスープはどうしても臭みがでるものですが、「ふくちゃんラーメン」のスープは臭みがなく、そのうえでコクがあります。秘密は、前日の「熟したスープ」と、今日作った「新しいスープ」とのブレンドでした。「新しいスープ」にはキレはあるが、コクがない。そのコクを引き出すのが「熟したスープ」なのです。

コクがあってキレもあるのに、臭みのないスープ。「熟したスープ」と「新しいスープ」のブレンドがその秘密

博多ラーメンで、今や定番となっている生ニンニクですが、クラッシャーで“つぶして食べる”という方法を最初に始めたのが「ふくちゃんラーメン」です。フレッシュなものをその場で食べてもらいたいと、スイス製のレモン絞り器を見つけ、クラッシャーとして使い始めたのでした。

生ニンニクをつぶしてラーメンに加える道具がニンニククラッシャー。その先駆者が「ふくちゃんラーメン」

ラー博出店では、二代目の娘さんが厨房に

新横浜ラーメン博物館への最初の出店は2004年8月でした。ただ、人手の問題があり、出店までには時間がかかりました。そこで白羽の矢が立ったのが、数年前に福岡に戻っていた順伸さんの次女・伸江さん。伸一郎さんの姉でした。伸江さんは念願だった自分の店をオープンし、週末だけ、「ふくちゃんラーメン」を手伝っていました。お母さん(順伸さんの妻)は、苦労して自分の店を持った娘に対して、「横浜へ行ってくれ」とはどうしても言えませんでした。でも、娘の伸江さんは母の表情から、「自分に横浜に行ってほしいのだな」というのがすぐわかったようです。

ラー博への出店では、最初の出店も、30周年企画でも店主・順伸さんの次女・伸江さんが厨房に立った

「あそこまで困っている母を見て、安心させてあげたかった」と、自分の店を閉めて横浜に行く決心をしたそうです。そして長女である姉の美子さんは、妹を少しでも安心させたいという思いから、ご主人の桑原英樹さんに同行をお願いし、伸江さんをサポートしていただきました。私たちは本当に伸江さんに頭が上がりませんし、感謝しかありません。

■ふくちゃんラーメン
[住所]福岡県福岡市早良区田隈2-24-2

広い駐車場のある博多郊外の店に移転してすでに30年以上の「ふくちゃんラーメン」
次のページ
『ラー博30年 新横浜ラーメン博物館 あの伝説のラーメン店53』『ラー博30年 新横浜ラーメン博物館…
icon-next-galary
icon-prev 1 2 3 4icon-next
関連記事
あなたにおすすめ

この記事のライター

おとなの週末Web編集部
おとなの週末Web編集部

おとなの週末Web編集部

おとなの自動車保険

最新刊

全店実食調査でお届けするグルメ情報誌『おとなの週末』。7月15日発売の8月号では、夏こそ飲みたい、キ…