「品川駅」がはじまりだった日本の鉄道史
工事が遅れるなか、1872(明治5)年1月になると鉄道を管轄する工部省(当時)は、「品川駅~横浜駅間」の仮賃銭(仮運賃)の許可申請を政府に対して行った。これは、品川駅から新橋駅までの工事完成を”待っていられない”とする、事実上の「見切り発車」のあらわれだった。その4か月後には、品川駅と横浜駅間で「仮開業」させることを決め、その開業日を5月7日(旧暦→新暦の6月12日)と決定した。こうして日本初の鉄道路線は、品川駅と横浜駅間で「仮開業」の名のもと営業運転を開始した。このときの品川駅~横浜駅間は全線単線で、運転本数は1日6往復(初日は2往復)とし、途中駅はまだ設けられていなかった。
沿線には、日本初の鉄道をひと目見ようと連日大勢の見物人が押し寄せたという。民衆は、蒸気車のことを「陸蒸気〔おかじょうき〕」と呼んだ。当時はすでに海上に「蒸気船」が就航しており、“陸の上”を走る蒸気の乗り物であることから「陸蒸気」と命名された。この”造語”の名付け親は、かの福沢諭吉氏だといわれる。
その後、1872(明治5)年6月になり、ようやく高輪築堤の工事は完成し、7月上旬には新橋駅からの開業を見込んだ。しかし、結局のところ開業予定日は9月9日(旧暦)となった。この日は、長寿や繁栄を祈る「重陽〔ちょうよう〕の節句」の日だった。ところが、開業式は天候に恵まれず、3日後の9月12日に順延した。日本初の鉄道開業式は、明治天皇をお迎えして華々しく挙行された。この日を新暦に置き換えると10月14日となり、のちに制定された「鉄道記念日(→現・鉄道の日)」となったわけだ。ちなみに、当時は”開業式”とは呼ばず、「開行式」と呼んでいた。
品川駅が日本で最初に開業した鉄道駅のひとつだった史実は、明治天皇が行幸した開業式(10月14日)の影に埋もれてしまい、後世に語り継がれることなく、広く世に知れ渡ることはなかった。なお、明治天皇も開業式を待たずして7月12日に横浜駅から品川駅まで乗車しており、鉄道開業式が初めての乗車ではなかった。このフライング乗車は、訪問先の九州から帰京する際に天候不良で品川沖に御召船が着艦することができず、急きょ横浜港へ入港したことによるものだった。
ちなみに、品川駅の高輪口(西口ロータリー)には、日本で最初に開業した鉄道の駅であることを記した「品川駅創業記念碑」が建立されている。しかし現在は、駅周辺の改良工事(連続立体交差事業)のため、記念碑も一時期的ではあるが撤去されており、いまは見ることができない。




