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アメリカでは2016年から売上アップ

ところで、そもそも缶ワインのブームは“世界一のワイン消費国”アメリカが発祥である。

アメリカで缶ワインの売上が急伸し始めたのは2016年あたりからだ。ニールセンが発表したデータによると、12年に200万ドルほどの市場規模だったのが、2018年には6900万ドルを超えるまでに成長した。別のデータによると、20年の売上は約2億ドルで、前年比68%増だった(MARKET WATCH)。乱暴なのは承知の上で両方をつなげて見ると、8年間で100倍になったという計算になる。これはもはや「フェノメノン(現象)」と呼ぶべきレベルの動きではないか。

複数のメディアに書かれた分析から推測すると、ブームの背景には、
(1)ワインを飲むシチュエーションの変化
(2)酒量の抑制
(3)コストの節約
がある。
(1)は、休暇で出かける自然の中やボートの上などを指す。軽量で、落としても割れないのは便利だ。日本でも空前のキャンプブームだが、アウトドアと缶ワインはいかにも親和性が高そうに見える。(2)には米国内に800万人以上の患者がいるというアルコール依存症の影がチラリ。アルコール関連の原因で1年間に死亡した米国人の数は、1999年から2017年までの間に2倍以上に増えたとの研究報告がある。アメリカで流通している缶ワインのサイズは、187ml、250ml、375mlだが、375mlよりも250mlや187mlの方がニーズが高いそうだ。(3)はコロナ禍に見舞われて以降、さらに切実な問題になっているだろう。

大手ビール会社が参入

ブームに拍車をかけたのが大手ビール会社の参入だった。バドワイザーなどを要する世界屈指の酒類メーカー、アンハイザー・ブッシュ・インベブが19年6月にBABEという缶ワインのブランドを買収、スーパーモデルのエミリー・ラタコウスキーを「公式チーフ・オブ・テイスト」(つまりCMキャラクター?)に起用、NFLで初の公式ワインスポンサーになり、試合が開催されるスタジアムでBABEが販売されるなど、缶ワインの認知向上に大きな役割を果たした(スタジアムで缶ワインって、いかにも似合いそうだ)。

さて、缶ワインは近い将来、ボトルワインを駆逐してしまうのだろうか? 僕のアメリカ人の友人で、ペンシルベニア州フィラデルフィアでワイン商を営むBさんに実際のところを訊いてみた。

──風の噂にアメリカでは缶ワインにグラスを添えて出す飲食店があるって聞いたけど、本当?
Bさん「僕は知らないけど、あってもおかしくはないね」
──缶ワインがブームだって感じている?
Bさん「それがまだそれほどでもないんだよ。缶だと、どのサイズが最適なのかという問題の結論がまだ出ていなくてね。そこが問題だね」

うーむ。統計の数字ほどには「現場」は盛り上がっていないように見える。参考になるかも知れないとBさんがリンクを送ってくれたワイン業界向けメディア「Advisor Wine Industry Network」によると、〈確かに缶ワインの売り上げは伸びている。が、2020年の売り上げは、缶ワインが約2億ドルであったのに対し、ワイン全体の規模は700億ドルであったことを考慮しなくてはならない〉とのこと。米国で過去3年間に缶ワインの認知度は飛躍的に伸びたものの、ワイン消費者の10人に4人はまだワインに缶入りのものがあることすら知らない、とのデータも紹介されていた。この現実を「急伸はしているけど、ほんの些細な動き」と見るか「将来的なポテンシャルが極めて高い」と見るかは、受け手によって変わるだろう。

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浮田泰幸
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