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「ライク・ア・ヴァージン」 モータウン・ソウルの影響

極私的マドンナの3曲、2曲目はセカンド・アルバム『ライク・ア・ヴァージン』からシングル・カットされ、彼女に初の全米No.1をもたらした「ライク・ア・ヴァージン」だ。基本的にはシンガー・ソングライターであるマドンナだが、時には他人の楽曲を歌ったり、共作したりすることもある。「ライク・ア・ヴァージン」は彼女の自作にも思える曲だが、実はビリー・スタインバーグとトム・ケリーのコンビによる楽曲だ。当時のこのふたりのライティング・チームは人気で、バングルスやホイットニー・ヒューストン、ハートなどにもヒット曲を提供していた。

この連載の1から3にかけてのマドンナのインタビュー紹介では、四方山話が多かったと記しているが、音楽的会話もあった。その中で彼女は“幼い頃はモータウン・ソウルが好きだった”と語っていた。シュープリームス、テンプテーションズ、マーヴィン・ゲイ…。1960年代、モータウン・レコードからは多くのヒットが生まれていた。

そんなモータウン・ソウルの影響が「ライク・ア・ヴァージン」には見られる。この曲に関してマドンナはプロデューサーのナイル・ロジャースには”シンセサイザーなどのデジタル的な楽器は一切使わずに、現代の(1980年代の)モータウン・ソウルを思わせるサウンドにして欲しいの”と頼んだとぼくに教えてくれた。確かにモータウンの薫りがするサウンドだ。

「ライク・ア・ヴァージン」で印象的だったのは水の都ベニスで撮影されたミュージック・ビデオだ。マドンナはミュージック・ビデオの流行を先取りしてMTVで人気となったミュージシャンのひとりだと思う。

「レイ・オブ・ザ・ライト」 死者への追悼を思わせる

極私的マドンナの3曲目は1998年のアルバム『レイ・オブ・ザ・ライト』のタイトル曲「レイ・オブ・ザ・ライト」。ダンサブルな曲が多いイメージのマドンナだが、この曲は内省的な曲だ。歌い出しの“夜空をゼピュロスが駆け巡る 死を悼む涙が太陽に溶け込む”という詞は文学的かつ、湾岸戦争などの死者への追悼を思わせる。

“Ray Of Light”とは“ひと筋の光”という意味だが、この“ひと筋の光”は、平和へのわずかではあるが、確実な希望とも取れる。詩人マドンナの面目躍如と思える隠れた名曲だと思う。こんな曲が書けるスキルがマドンナを世界一の女性ミュージシャンへ導いているのだろう。どんな曲でも書けるマドンナらしい1曲だ。

2019年の『マダムX』などマドンナの名盤の数々

岩田由記夫

1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。最新刊は7月19日に発売された『岩田由記夫のRock&Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。

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