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歌っている時以外はまったく無防備な人

「飾りじゃないのよ涙は」の時分に比べてセールスはやや落ちていたとはいえ、このインタビューもようやく実現したほどに彼女はまだまだスーパーアイドルだった。

何故、彼女はインタビューの冒頭で、まだ22歳の若さなのに“人間って儚いですよね”などと言ったのだろう。インタビュー慣れしたアイドルが場を盛り上げるための演出の言葉だったのだろうか?それとも窓の外、夕闇に支配された空が言わせた本音だったのだろうか?後々、随分と考えた。

このインタビューの翌年、彼女に幾多のスキャンダルが襲う。自殺未遂、恋人との別れ…。そんなことを彼女は予想していたのではないかと今は思う。あの言葉は彼女の本音であったのだと。

10代のインタビュー、20代のインタビューを通じて伝わって来たのは、彼女は歌の仕事をしている時、歌っている時以外はまったく無防備な人だということだ。数々のスキャンダルに襲われてしまうのは、その天真爛漫ともいえる無防備さ故ではないだろうか?

歌という実存的な行為に生きている時以外は、ニヒリストとも呼べる生き方をしていた。それが若き日の中森明菜であり、日常をニヒルに生きていたからこそ、歌うという実存的行為の中で光り輝けたのではないだろうか。

1989年の伝説ライヴを収めたCD『AKINA EAST LIVE INDEX-XXIII』(左上)など中森明菜のアルバムの数々

岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。最新刊は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)

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