イメージにぴったりの喫茶店を発見
いろは坂通りを下り切った、霞ヶ関橋のたもとに有名な寿司屋さんの支店があったけど、寿司じゃぁ『耳すま』のイメージとはあまり合わないし、なぁ。駅まで戻れば店はいくらでもあるだろうけど、チェーン店ではつまらない。霞ヶ関橋は作中で雫と聖司が渡るシーンでも使われていたし、できればこの橋の近くで……と探してたら、ありました!
『Cafe haruru』。喫茶店なら作品のイメージにぴったりじゃありませんか!? 「靴・バッグの修理洗浄」の文言に「?」だったけど、「軽食」もあるみたいだから迷わず入店。
カウンターが奥に伸びる細長い店内で、女性用らしき荷物が一番奥に置いてあったけど、マスターによると「あぁ、散歩に行っているんですよ」とのこと。常連客かな?
そこで一番手前の席に着き、メニューを物色する。カレーライス、スパゲッティなどがあって迷ったが、雫と聖司がこの店に来たとしたら、と想像を膨らませて、サンドウィッチドリンクセット(600円)を注文した。ドリンクはアイスコーヒー。
すると、カウンターの中からじゅ~っ、という音が聞こえて来る。玉子焼き、注文受けてから焼き始めるんだ!
出て来たサンドウィッチを頬張ると、バターの香りがほのかに口の中に広がる。いや~癒されますな。川のすぐ近くだし、散歩するのにもってこいの場所。歩いた後で立ち寄るには、最高の立地ですな。
マスターは話好きらしく、「どこから来たんですか」などと話し掛けて来る。答えて、「表の、靴の修理って何ですか」と尋ねると、「あ~以前はここで注文受けて、自由が丘(目黒区)の作業場に持ってってたんだけど、あっち閉めちゃったんですよ」とのことだった。そういう職人さんでもあったわけですね。
雫と聖司もここでコーヒーでも飲みながら、マスターと寛いでたらいい感じだろうなぁ。そんな風にイメージ膨らませてたら、オバチャン2人連れが入って来た。どうやらここの奥さんとその友達らしく、奥の荷物は彼女らのものだった。
「○○さん、まだ来ないの」「身体、悪くしたんじゃなかった」なんて近所話で盛り上がってる。完全にオッチャンオバチャンの世界。雫たちが入り込むにはまだ早過ぎるようで。
ここに似合うようになるには2人が一緒になり、子供を育て上げて一息つく年齢になった後、だろうなぁ。
2022年、2人の10年後も描いた実写映画が上映されたらしいけど、たまたま巡り会ったこういうお店で、その更にずっと先を思わず想像してしまってた私でした。
【『耳をすませば』のストーリー】
主人公、月島雫は東京郊外の町に暮らす、読書が大好きな中学3年生。父の勤める図書館に自らも通うがある日、自分の借りた本の図書貸出カードにいつも「天沢(あまさわ)聖司」の名前があることに気づく。どんな人なんだろう? と想像が膨らむがやがて、思ってもみなかった形で本人と巡り合う。
友達との友情。男友達とすれ違う想い。人との出会いと別れ。将来への希望と不安……。女の子の、揺れ動く若き日々を鮮やかに描き切った、青春映画の傑作。
『Cafe haruru』の店舗情報
[住所] 東京都多摩市関戸4-34-2
[電話]042-371-0473
[営業時間]要問い合わせ
[休日]日曜
※新型コロナウイルス感染拡大の影響で、営業時間や定休日は異なる場合があります。
[交通]京王線聖蹟桜ヶ丘駅西口から徒歩約5分
西村健
にしむら・けん。1965年、福岡県福岡市生まれ。6歳から同県大牟田市で育つ。東京大学工学部卒。労働省(現・厚生労働省)に勤務後、フリーライターに。96年に『ビンゴ』で作家デビュー。2021年で作家生活25周年を迎えた。05年『劫火』、10年『残火』で日本冒険小説協会大賞。11年、地元の炭鉱の町・大牟田を舞台にした『地の底のヤマ』で日本冒険小説協会大賞を受賞し、12年には同作で吉川英治文学新人賞。14年には『ヤマの疾風』で大藪春彦賞に輝いた。他の著書に『光陰の刃』『バスを待つ男』『バスへ誘う男』『目撃』、雑誌記者として奔走した自身の経験が生んだ渾身の力作長編『激震』(講談社)など。2023年1月下旬、人気シリーズ最新作『バスに集う人々』(実業之日本社)を刊行。