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京料理の世界は常に変化し、どこかで新たな発想が登場している。数ある京都の料理店から、歩みを止めない料理人たち3人に注目した今企画。3回目の登場は、料亭『瓢亭』の15代目主人・高橋義弘さん。伝統を守り、京料理であり続けるために、何を試み、選び、挑戦しているのか。今とこれからの目指す形と思いをうかがった。

創業450年、京都随一の老舗料亭

京都随一の老舗料亭『瓢亭』の創業はおよそ450年。南禅寺の参道沿いの腰掛茶店として暖簾を掲げ、料亭として営業するようになったのは江戸時代末期から。茶店だった頃の佇まいを残しつつ空間を整え、料理もまたお客の所望に応えながら現代の風を取り込んでいる。

茶店の頃の趣を残す玄関。天保末期に料亭となり、明治時代に入ってからは維新の元勲達が訪れ、大正、昭和、平成にかけては茶人、文化人、財界人らが贔屓となる

「15代続く店ですから劇的に変えることは難しいです。かといって伝統を頑なに守らなくてはいけないといった思いはありません。献立でいうと7割がたは変えず、あとの3割は少しずつ変えている感じでしょうか。試みながら繰り返しやってみて、時には先代やスタッフの意見を聞き、瓢亭の味や空気感に即した新しさを取り入れるようにしています」

鯛の造りに添えている「トマト醤油」もその一つ。「繊細な香りや味が好まれる現代に求められる味」と思って発想し、徐々に研磨し、違和感がないように瓢亭の味になじませ、土佐醤油一本だった鯛の造りに加えた。

「土佐醤油をつけると食べた瞬間から醤油と鯛の味がしますが、トマト醤油は咀嚼するうちに鯛の味がじわじわ感じられる醤油。最初はお客さんの反応を見ながら出し、ゆっくり時間をかけてうちの味になりました」

フレッシュ感を出すために毎朝仕込んでいるトマト醤油。昆布に次いでグルタミン酸が多いトマトに着目し、120℃で40分焼き、煮出して濾して調味している
瓢亭の造りは年間を通じてほぼ明石鯛。口あたりのよいへぎ造りにし、ケンは添えず、わずかなあしらいだけと決まっている。トマト醤油は当代考案の「柚子あぶら」を垂らしてワインにも合う仕立てに

長らく通うお客でも、その変化に気づくかどうか。そんな工夫がされているのが「鮑と蓬豆腐の煮物椀」。蓋を取った瞬間に炭の香りが立ち上がり、鮑は以前にも増して柔らかく、旨味もぐんと進化している。

「見た目は今までと変わりませんが、召し上がっていただくと新しい味や香りを感じてもらえる煮物椀です。鮑の炊き方を変えたり、油脂を取り入れていますが、唐突な変化に思われないように意識しています」

さらに鮑に合わせる蓬豆腐もバージョンアップし、添えられたふきも今までにない組み合わせ。少しずつの変化を丁寧に刻んでいる。

炊いた鮑の表面に油を塗って炙り、炭の香りを定着。炊いているのに薫香がする、今までにない味わいを楽しめる
鮑と蓬豆腐の煮物椀。鮑は、以前はゆがいてだしで炊いていたが、今はゆがき汁とだしで炊いて濃厚な味に。蓬豆腐は、乾燥と茹でた蓬をミックスして色と香りを抽出している

瓢亭の料理は茶懐石に倣う流れだが、既存の範疇にない料理もある。「甘鯛のうろこ焼き」とだしを煮含めた湯葉の盛り合わせにうすい豆のあんを添えた一品は、和の味わいにしてフレンチのような華やかさ。見た目にも味にも吟味されたアプローチがある。

「焼き物と炊き合わせを一つにしたような料理で、中華風の油焼きや、葛を使わずに作るあんなど、いろんな手法を取り入れています。これまでの懐石にない料理ですが、新しさをウリにしているわけではなく、現代ならこんな料理も必要と判断し、他の料理と違和感がないように仕立てました」

うろこ焼きは14代が考案した油焼きをバージョンアップさせたもの。190℃に温めた太白ごま油をかけながら表面の水分を飛ばしてうろこを立たせ、オーブンで加熱。皮がパリッとし、身はホロリと崩れるやわらかさに
うすい豆あんでいただく甘鯛のうろこ焼きと湯葉。あんは、火入れして裏ごした豆と生のままパコジェットで粉砕した豆を合わせ、自然なとろみと豆独特の青臭さを引き出している

高橋さん考案の料理は、他にもある。鴨ロースの手法を取り入れたローストビーフを八寸に加えたり、白和えの衣をソースのようにかけて先付にしたり。さらに味の要となるだしに野菜だしや貝だしを揃えるなど、京料理のルーツを見直しつつ多角的にとらえ、グローバルな視点でバージョンアップしている。

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建物や庭、しつらえ、器にも瓢亭ならではの世界観...
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おとなの週末Web編集部
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