デザートが得意だったドビュッシー
1928年に、ドイツとオーストリアで有名だった音楽家ルドウィッヒ・カルパートが自分同様の食事マニアの音楽家数十人に料理の原稿を書かせ、それを一冊の本にして出版した。
クノール・ヒルト社刊『個人専用の天火』がそれである。この本には書き下しばかりではなく、過去の小冊子からも若干のネタが集められている。
本巻の頭にまずリヒァルト・シュトラウスが登場、仔牛の肝臓料理の仕上げに酢を使うという斬新な手法を公開する。
文中には、南独バイエルンの国王ルードヴィヒ二世の援助を受けた19世紀ドイツ最高の作曲家ヴァーグナー(1813~83)の考案した料理も載っている。『ジークフリート』『タンホイザー』『神々のたそがれ』などを作曲しながら、ヴァーグナーは〔鰊の切り身と酢キャベツの妙めもの〕も作っていたのである。
またドビュッシーはデザートが得意だったらしく、リキュールの入ったクリームを芯に詰めた焼きリンゴの作り方を披露している。このデザート、何となくドビュッシーらしい感じがするではないか。
(本文は、昭和58年4月12日刊『美食・大食家びっくり事典』からの抜粋です)
夏坂健
1936(昭和9)年、横浜市生まれ。2000(平成12)年1月19日逝去。共同通信記者、月刊ペン編集長を経て、作家活動に入る。食、ゴルフのエッセイ、ノンフィクション、翻訳に多くの名著を残した。その百科事典的ウンチクの広さと深さは通信社の特派員時代に培われたもの。著書に、『ゴルファーを笑え!』『地球ゴルフ倶楽部』『ゴルフを以って人を観ん』『ゴルフの神様』『ゴルフの処方箋』『美食・大食家びっくり事典』など多数。
Adobe Stock(トップ画像:exclusive-design@Adobe Stock)