隠れ家で堪能する五感に響く旨さ『鮨おにかい』@中目黒
古民家の細い階段を2階に上がると、そこにカウンター10席だけの暖かい空間が広がっている。旧来の寿司屋で本格的な寿司をつまもうと思うと、どこか緊張感を覚えるものだが、ここではその必要はない。安心して委ねればいいのだ。
つけ台を挟んで向こうとこちらがほぼフラットな視界のひらけたカウンター。程よい距離感で言葉を交わしながら、一品ひと品何が来るのかワクワクしながら待てばよい。料理は3つの小鉢と15貫の寿司で構成される「おまかせコース」だ。
おまかせコース 11000円(にぎり15貫・全18品)
吟味され木箱に納められたネタはどれもしっかり仕事されているのがわかるが、まず驚くのはマグロだ。豊洲の卸直の一級品。寿司の最初の一品には赤身、中トロ、大トロの3つを重ねて一気に巻いたものが登場するが、いきなりの洗礼に悶絶するのは間違いない。長期熟成した赤酢と米酢のブレンドで、わりと酸味の効いたシャリがまたマグロの旨みを引き立てる。
江戸前をベースにひと捻りされたプレゼンテーションはもちろんまだまだ続く。びっくりするほど甘く、柔らかい苫小牧の北寄貝やみずみずしい白イカには、細かく包丁が入って食感も絶妙。鮮度と後を引く余韻が印象的でなかなかお目にかかれない生ニシン。風干しして皮目だけ軽く炙ったカマスは味が引き出されてふっくらしている。仕事する手元を眺めるのも楽しい。目で舌で、五感で味わう寿司の醍醐味と奥の深さをじっくりと堪能できるはずだ。
[住所]東京都目黒区上目黒2-18-11 2階
[電話]03-3714-9888
[営業時間]12時~14時、18時~、20時半~(二部制)
[交通]東急東横線ほか中目黒駅南改札から徒歩5分
“一期一会”に込めた想いをコースで堪能『鮓 伊保(いほ)』@本郷三丁目
寿司屋にはいろいろなタイプがあるが、ここは“誰かを連れて行きたくなる店”である。まず雰囲気がいい。カウンター5席のこぢんまりした空間。といっても窮屈さは微塵もなく、むしろゆったり座れてかなり快適。ほどよい距離感のある店主の接客も手伝い、不思議な親密感が生まれて実に心地よいのである。そして何より味がいい。
おまかせコース 11000円 ※内容は季節や仕入れで変わる
ネタは、店主が長年付き合い信頼を築いた豊洲の仲卸から仕入れる極上品ばかり。それを、「どう調理したら旨くなるのか」をとことん突き詰め、素材に真摯に向き合い、本来の味を最大限に引き出す。
酢や塩の加減は元より、包丁の入れ方、〆具合、シャリの温度もネタによって変えるという力の入れようだ。シャリはコシヒカリを極限まで固めに炊き、赤酢を中心に数種をブレンドした酢を合わせて食べやすく仕上げる。
それらがすべて、その時のネタとの一期一会の出合いとなり、30年間培ってきた職人の技、熱い想いとともに1貫の握りとして結実する。その旨いことといったら!清々しい味わいの小肌、口の中でとろける中トロ、ねっとりした漬けマグロなど、食すごとに感動しきりだ。
つまみ5品、握り8貫、お椀で構成されるおまかせコースを食べ終える頃には胸がいっぱい。ああ、次は誰を誘って訪れようか。そう思わずにはいられなくなるはずだ。
[住所]東京都文京区本郷5-4-5 菊ビル1階
[電話]03-5844-6788
[営業時間]14時~23時(21時LO)
[休日]不定休
[交通]地下鉄丸ノ内線ほか本郷三丁目駅3番・4番出口から徒歩6分
撮影/貝塚隆、取材/肥田木奈々(鼓)、菜々山いく子(おたや)、池田一郎(鮨おにかい)、松田有美(伊保)
※2023年11月号発売時点の情報です。
※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。