「かん水」も自身で調合、ドイツという限られた環境で生まれたラーメン
ではどのようにラーメンが生まれたのでしょうか?
「ラーメンはほぼ独学で作りました。日本はラーメンを作る環境が恵まれているのに対し、ドイツは限られた環境でした、例えば、麺に使用するかん水。日本では当たり前のように手に入りますが、当時のドイツでは薬局に行って炭酸ナトリウムと炭酸カリウムを購入して自分で調合していました。小麦粉も日本のようにラーメン用にブレンドされた小麦はありません。パン用粉が主体で、麺を作ってもぼそぼそとした食感でラーメンに適しませんでした。そのため粉というものは全て試し、ピザ用の小麦と、パスタ用の小麦に辿り着きました」とのこと。
しかし、山本さんはこの環境があったからこそ今に繋がっていると言います。
「もしあの時、日本のようにラーメンを作る環境が整っていたら、既成概念に縛られたラーメンしか作れなかったと思います。制限されているからこそ、知恵と工夫が生まれたのだと思います」
そして「どんなに技術や知識がある日本のラーメン店でも、海外でラーメンを作るというのは全く別の話。限られた環境の中でラーメンを作りだせたことが私たちの最大のアドバンテージ。私はアフリカでも現地の食材を使ってラーメンを作る自信があります」とのこと。
これこそが無垢の強みです。
口コミで広がり、欧州中から客が訪れる
無垢は当初、看板もなければHPも持たないお店でした。
私たちが初めて訪れた2012年には既に多くのお客さんで賑わっておりました。ではいかにしてお店は繁盛していったのでしょうか?
山本さん曰く「最初からお客さんがたくさん来たわけではありません。滑らかな曲線を描いていった感じです。最初は日本人の方が来られて、次第に認めていただき、そしてその日本人の方が“ここは本物の日本のラーメンが食べられるよ”とドイツ人の方を連れてきてくれて、そしてドイツ人の方がドイツ人の友達を連れてきてくれて、その口コミによってドイツ外の欧州の方々も来るようになりました。私たちは一切のマーケティングをしませんでした。何故ならば口コミに勝るマーケティングはないと思っているからです」
口コミというのは、味や空間、おもてなしといった様々な要素が期待を上回っているから広がります。打ち上げ花火ではなく、じっくりと時間をかけて自分たちのイズムを貫いたからこそ、欧州中からお客さんが訪れるお店になったのだと思います。
当時、ヨーロッパの口コミサイト「トリップアドバイザー」ではフランクフルト市内の1700軒近くあるレストランの中で、星付きのお店を上回るTOP10入りを果たしていました。
無垢では8割の席を予約、2割の席をウォークインで受けています。2014年にラー博にオープンしたころの本店は、1日100件を超える予約の問い合わせがあり、数カ月先まで予約が埋まっている状況でした。