日本三大そばの「出雲そば」の発祥は出雲ではない!? 食べ比べて分かった“3食そば”でも飽きない魅力

長野県の「戸隠そば」、岩手県の「わんこそば」と並び、日本3大そばのひとつに数えられる島根県の「出雲そば」。実際に食べたことがないという人でもその存在は知っているはず。でも「出雲そば」が、出雲市ではなく、松江市発祥のものだ…

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長野県の「戸隠そば」、岩手県の「わんこそば」と並び、日本3大そばのひとつに数えられる島根県の「出雲そば」。実際に食べたことがないという人でもその存在は知っているはず。でも「出雲そば」が、出雲市ではなく、松江市発祥のものだということは、あまりご存じないのでは? なーんて偉そうに書いている筆者も今回初めて知りました。

そもそも「出雲そば」ってナニ?

羽田空港から出雲縁結び空港までのフライト時間は約1時間20分。あっという間です

というか、「出雲そば」ってナニ? という方もいらっしゃるかと。今回はその「出雲そば」の真髄に迫るべく、というか迫るためだけに松江に飛びました。まずは、松江そば組合副組合長の景山直観さんのところに出向き、教えを乞うことに致しましょう。

「出雲そば」ならではの食べ方のひとつ「釜あげそば」。茹でたそばを水で締めずに、茹で湯と共に丼に入れて、直接、その丼につゆをかけていただきます

そもそも「出雲そば」の歴史は、徳川家康の孫として生まれ、1638年に信濃松本藩7万石から転封(てんぽう)、松江藩18万6000石の松平家初代藩主となった松平直政公の時代にさかのぼります。

当時の信濃においてすでにそばは一般的な食べ物で、直政公が松江藩に移った際にそば打ちも伝わったとされています。

島根県エリアにおいて発見された、そばの記述は、現在のところ、1666年に出雲大社神職が書いた「江戸参府之節日記」が最古のもの。そこには松江の寺社奉行宅でそば切(そばを切って麺状にしたもの)が振る舞われたことが書かれていて、「つまり出雲そばは松江城下から伝わったものなのです」と景山さんは胸を張ります。

ただ、名称については、松江を含む出雲地方の名物として認識され、「出雲そば」と呼ばれるようになったのでしょう。

国宝「松江城」

2015年に国宝に指定された「松江城」は言わずもがな、松江市のシンボル。全国で現存する12天守の中のひとつでもあります。松江城に隣接する、現在の松江歴史館があるあたりは、直政公の時代は身分の高い人たちが住居を構えていた地域。そのあたりの地質を調べたところ、当時からそばを育てていたこともわかりました。

そんなわけで、県外の多くの人が、「『出雲そば=出雲市発祥の名産品』と認識されていることについては、忸怩たる思いがあります(笑)」と景山さん。

「近年、松江市では、在来種のそば粉、伝統の打ち方、出汁のとり方、そば椀にもこだわりその知名度に磨きをかけた『松江松平そば』に力を入れています」と力を込めます。

早速「出雲そば」を実食!

それじゃあ伝統の「出雲そば」、早速いただいてみようじゃありませんかと、景山さんが営む「たたらや」に案内してもらいました。

同店は1901(明治34)年創業の老舗料理店「一文字家」の直営の出雲そば専門店。松江駅の駅ビルの1階──つまり駅ナカという至便な場所にあり、観光客にも地元の人にも人気です。

松江駅の駅ビルにある「たたらや」。改札からすぐ、というすばらしい立地です

おすすめをお願いしたところ、真っ先に出てきたのは、先ほど景山さんが熱弁をふるっていた「大田産大穴子と松江松平そば」(2000円)でした(笑)。

「松江松平そば」は、松江市、松江商工会議所、JAしまね、松江そば組合、松江産そば協議会で作る「松江そば文化ブランド化推進協議会」の今、いちばんの推しメン(麺)。

なお、「松江松平そば」を名乗るには、出雲そばの特徴である、そばの実を殻のついたまま挽く「挽きぐるみ」で作られていること、松江藩を治めた松平家の家紋を付したそば椀で提供することなど、いくつか縛りがあるそうです。

「大田産大穴子と松江松平そば」(2000円)

「松江松平そば」は、同協議会に加盟するいくつかの店のメニューに載っていますが、「たたらや」の「松江松平そば」は大穴子や野菜の天ぷらと共にお出ましに。

そば粉には松江のそばの在来種を使っていて、これまた出雲そばの特徴のひとつである「割子(わりご)そば」のスタイルで運ばれてきました。

「割子そば」とは、古くから松江に伝わる食べ方のひとつである、丸く朱(あか)い器に盛られたそばのこと。割子そばの器は、江戸時代にはお弁当としてそばを持ち歩いていたこともあって、四角形のお重が使われていたのだとか。それが明治に入ると、「四角だと四隅が洗いにくい」として、保健所の仕事もしていた当時の松江警察署長の発案で、衛生的な面から丸い器になったのだそうです。

3段で1人前になっている場合が多く、これに自身で薬味をのせ(薬味がのった状態で運ばれてくることもあります)、そばつゆを直接かけていただきます。

そばに日本酒をかけただけで、こんなにいいツマミになるなんて! ……ちなみに、こちらの写真の手タレは景山さんです

こういうのって、かけすぎると取り返しが付かなくなるんだよね、気をつけなきゃと、恐る恐るつゆをかけて調節しながら食べ進めていきます。すると、「割子はね、噛みしめてそばの味と香りを楽しんでください」と、景山さんからそば愛あふれるレクチャーが(笑)。

そして、そろそろ器からそばがなくなる、という絶妙のタイミングで、「少しだけそばに日本酒を足してみてください。ほんのちょっとですよ!」。

なるほど。少しお酒をかけることで、つゆの風味が格段に増します。お酒のいいつまみにもなります。

「こうやって味変をはかるのが楽しいんですよ! なかには塩を持ち歩いている達人もいます」(景山さん)。

もうひとつ、「これはぜひ食べていただきたいです」と、景山さんが出してくれたのは、「島根牛みそ玉そば」(1150円)。

「島根牛みそ玉そば」(1150円)。元ネタ(?)の「島根牛 みそ玉丼」も食べてみたくなりました……

「一文字家」は実は旅館として創業し、1908年からは駅構内で弁当や土産品の販売を始めた山陰地方では誰もが知る駅弁の老舗です。なかでも「島根牛 みそ玉丼」が有名で、お客様のリクエストによりこれをそばにアレンジしたのが、この「島根牛みそ玉そば」なのだとか。

天然酵母みそに砂糖と果汁、そして、地酒を加えて炊き上げた島根牛がどどーんとトッピングされていて、見た目の通り濃厚ですが、挽きぐるみで作る出雲そばは負けてはいません。

前述の「松江松平そば」は松江の在来種を使ったスペシャルバージョンですが、「たたらや」では、通常、寒暖差の激しい奥出雲地方のそばを使用。しっかりと存在感のあるそばの懐の深さを実感しました。

「釜揚げそば」は時間によっておいしさが変わる!?

次に伺ったのは「上田そば店」。松江そば組合の店舗内ではもっとも歴史があるお店です。店主の松浦邦春さんは、「創業は明治40(1907)年頃と聞いています」。そう、まさに松江藩の歴史を伝えるそば店なのです。

松江市の中心地に位置する「上田そば店」

初めてなのにどこか懐かしさを感じる古き良き老舗のそば店、といった店構えで、こちらも観光客、地元の人問わず、多くの人が詰めかけます。

「割子そば」と「釜揚げそば」のセットといううれしいメニューもありました(「割子そば」2枚と「釜あげそば」のセットで1,150円)。ですが、今回は、「割子そば」(810円)、「釜あげそば」(700円)をそれぞれオーダーすることに。

「割子そば」(810円)

「釜あげそば」は「割子そば」同様、出雲そば独自の食べ方です。「釜あげうどん」をイメージしていただくとわかりやすいと思います。湯がいたそばを水洗いせず、茹で湯ごと丼に盛る温かいそば。

その昔、出雲大社周辺の屋台で参拝客に振舞っていた際、屋台では水洗いが難しく、そば湯ごと器に入れていたことが起源とされています。

「釜あげそば」(700円)。「割子も釜あげも最後の味付けをゆだねる、という点は共通していますよね」と松浦さん。たしかに!

食べ方は、まずは何も付けずにそばの味を楽しみ、その後、お好みで直接丼につゆや薬味を加えるのが一般的。「しっかり噛んでいただくのが出雲そばです。ぜひのど越しも楽しんでください」と松浦さん。挽きぐるみの出雲そばはやはり噛みしめて楽しまないと、ということですねぇ。

そうそう、「釜あげそば」は時間帯によって汁のどろどろ状態が違うんですって。朝はさらりとしていますが、多くのそばを茹でた後の夕方などは、どろりとしているのだとか。

「その日の忙しさによっても違うのだけど、みなさん、それぞれ好みがあって、13時頃の茹で汁がいちばん好きだとおっしゃる方は多いですね」(松浦さん)。なるほど奥が深い。この日伺ったのは15時すぎ。確かに少しどろりとしていて、それはそれでいい感じでした。

日本庭園を眺めながら“生命力抜群”のそばをいただく

最後に向かったのは、松江市にありながら「出雲そば」を名乗っていないそば店、というか日本料理店「竹りん」です。1年を通じて壮麗な牡丹の花が咲く、約1万坪の日本庭園「由志園(ゆうしえん)」の中にあり、大きな窓から美しい日本庭園を眺めながら食事ができます。松江市の中心地から車で約30分、汽水湖・中海に浮かぶ大根島にある「由志園」は、山陰地方最大級の池泉回遊式日本庭園です。

「由志園」
「由志園」

「由志園」が位置するのは、湖のなかにある外周約12km、面積約6平方キロメートルの大根島。「竹りん」ではその大根島で作られた二八そばを提供しています。

大根島では、江戸時代から高麗人参(雲州人参)が作られていて、牡丹と並ぶ島の特産品なのだそう。が、高麗人参は薬効が高いため、一度、高麗人参(雲州人参)を収穫した畑は、栽培に必要な土壌力が戻るまで大変な時間を要します。

さまざまなものを植えてみてもうまく育たず、そんななか、見事に育ったのがそばだったのだとか。そばって、生命力があるんですねえ(笑)。

そんな大根島産のそばを石臼でひいたこちらのそば、香りも高く、こりっとした食感。一般的な出雲そばと同じように、のど越しも抜群です。

「天せいろ蕎麦(冷)」2,200円

気になる「高麗人参豆腐鍋」もオーダー。高麗人参を煮詰めたエキスで作った豆腐と、そこから染み出す高麗人参のエキスの滋味深さよ! たまりません。

「高麗人蔘豆腐鍋」(数量限定)1,200円

3食そばでも飽きない「出雲そば」の魅力

そんな風に駆け足で巡った「出雲そば」を巡る旅。バリエーションが豊富すぎて、3食続けて食べてもまったく飽きませんでした(笑)。むしろ、できるならほかの店のものも味比べしてみたいという探求心がふつふつと湧き上がってきてしまったくらいです。

景山さんが言っていた、釜揚げそばにとろろを入れ、卵の黄身と混ぜて食べる、という食べ方にもチャレンジしてみたい! どうやら禁断の扉を開けてしまったようです。

「たたらや」
住所/松江市朝日町伊勢宮472-2
営業時間/11:00~16:00
TEL/0852-61-3750
定休日/不定休

「上田そば店」
住所/松江市西茶町52
営業時間/11:00〜15:30(そばがなくなり次第終了)
TEL/0852-21-3815
定休日/土曜・祝日

「由志園 日本料理 竹りん」
住所/松江市八束町波入1260-2
営業時間/平日 11:00~15:00 (L.O.14:30)
TEL/0852-76-2255
定休日/12月30日・31日
https://www.yuushien.com/shokuji-kojin/

文・写真/長谷川あや

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