廃止されたはずの路面電車
東京都内を縦横無尽に走っていた「都電」をご存知の方も少なくなった昨今。それもそのはず、1972(昭和47)年以降は「都電荒川線」だけになり、52年の歳月が過ぎたのだから。その都電が「真夜中に走っている……」という目撃証言があったという。もちろん昭和の時代のことで、目撃されたとされる場所は都立青山霊園の最寄りにあった「墓地下」という都電の停留所があった道路上だった。青白い顔をした運転士が乗っていた、という背筋の凍るような目撃談も語り継がれた。もしかすると、都電の廃止とともに廃車になった車両を、トレーラに載せて道路を運んでゆく姿を、偶然目撃したのではないだろうか。もし、”都電の幽霊”ならば、出会ってみたい気もする。
終電に乗ったはずの女性客
神奈川県を走るS鉄道にも、昭和の頃、こんな話がある。当時終点だったI駅のひとつ手前のY駅に到着した終電車の運転士が、ホーム上にひとりの乗客の姿を見たという。「雨の降るこんな時間に、それも女性のお客さんで1駅だけ乗られる方もいるのか」と思ったそうだ。終点に着き、車内に乗客が残っていないか確認すると、床に残されていたであろう”雨のしずく”がないことを不審に思った運転士は、車掌に問いただした。すると車掌からは「女性のお客さんは乗っていませんでしたよ、乗客も少なかったですからね……」。そんなことが、雨の夜に何度かあったそうだ。沿線の人口が増えた今では、この話も聞かなくなったという。
文・写真/工藤直通
くどう・なおみち。日本地方新聞協会特派写真記者。1970年、東京都生まれ。高校在学中から出版業に携わり、以降、乗り物に関連した取材を重ねる。交通史、鉄道技術、歴史的建造物に造詣が深い。元日本鉄道電気技術協会技術主幹。芝浦工業大学公開講座外部講師、日本写真家協会正会員、鉄道友の会会員。