「砂場」「藪」「更科」がお蕎麦屋さんの「御三家」
そしてそんな商店街の真ん中に、これがある。「砂場」総本家。
東京で有名なお蕎麦屋さんというと、「砂場」「藪」「更科」が「御三家」とされてますが、それぞれの元祖である「かんだやぶそば」や麻布の「更科」は有名だけど、「砂場」の方はあんまり知られてませんよね。実は、こんなところにあったんです。
何と発祥は大坂で、大坂城築城の時に資材の砂置き場だったところに蕎麦屋が店を出したことが始まり、とか。江戸時代中期にこちらに移って来、大正元年に12代目店主が現在の場所に店を出した、という。
この古い商店街の中でも一際、異彩を放つ歴史感あふれる佇まい、どうですか。実は私もあることは知ってたけど、中に入るのは、初めて。期待に胸、膨らませて入店です。
歴史があるのに飾らない これこそ老舗の余裕
店内は思ったより広かったけど、あちこちに色んなものが置かれてて、雑多な感じ。それも蕎麦にまつわるものではなく、食事にすら関係のない中身の本や、何と電車の模型まで(笑)。いつの間にかここに置かれて、そのままずっとある、ってニュアンスですね。きっと本当にそうなんでしょう。
カツカレー丼の『河金』もそうだったけど、この飾らなさがもう何とも言えない。とんでもない歴史がある店なのに、そんなのちっとも表に出さず、威張ってるところなんて微塵もない。ただ、淡々とやっているだけ。老舗の余裕なんでしょう。いや、そんなこと意識する必要すらないんでしょうね。
本当は昼間っから一杯、と行きたかったけど、コロナのせいでそれも叶わず。オーソドックスに「大もり(800円)」を注文しました。出て来たのが、これ。
はっきり言って、味は至って普通でした。でも考えてみれば、周りがこれを受け継いだからこそこの味がスタンダードになって行ったんですものね。そのことに思いが至ると、逆に気高くにすら感じられて来る。
それと特筆したいのが、蕎麦湯がとっても濃厚だったこと。飲むと、茹でられた蕎麦の滋味が身体の隅々に沁み込んで行くよう。あぁ、これは健康によさそうだわ。
時間の流れが明らかに外とは違う店内で、大自然の恵みを満喫する。何という贅沢なひと時でしょう。おまけに順番は逆になったけど、蕎麦と吉原という「付き馬」の世界を辿ることもできたし、ね。
これでお酒が呑めれば何も言うことはなかったのに、なぁ。コロナめ! まぁ収まったら、また来ればいいだけの話ですね。
冒頭にも言いましたように、短期連載は取り敢えず今回で終わり。ただ、ちょっとお休みを頂いて、すぐまた再開します。
その日まで……
「砂場」総本家の店舗情報
[住所] 東京都荒川区南千住1-27-6
[電話]03-3891-5408
[営業時間]10時半~20時(2021年8月時点で、11時~17時)
[休日]木曜(2021年8月時点で、休日は水曜・木曜)
※新型コロナウイルス感染拡大の影響で、営業時間や定休日は異なる場合があります。事前にお店にご確認ください。
[交通]都電荒川線三ノ輪橋停留所から徒歩2分、地下鉄日比谷線三ノ輪駅から徒歩6分
西村健
にしむら・けん。1965年、福岡県福岡市生まれ。6歳から同県大牟田市で育つ。東京大学工学部卒。労働省(現・厚生労働省)に勤務後、フリーライターに。96年に『ビンゴ』で作家デビュー。2021年で作家生活25周年を迎えた。05年『劫火』、10年『残火』で日本冒険小説協会大賞。11年、地元の炭鉱の町・大牟田を舞台にした『地の底のヤマ』で日本冒険小説協会大賞を受賞し、12年には同作で吉川英治文学新人賞。14年には『ヤマの疾風』で大藪春彦賞に輝いた。他の著書に『光陰の刃』『バスを待つ男』『バスへ誘う男』『目撃』など。最新刊は、雑誌記者として奔走した自身の経験が生んだ渾身の力作長編『激震』(講談社)。
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