握った寿司が渇いていくのを見るのは悲しい
寿司の食べ方で、板前がいちばん困るのは、付け台においた寿司をずーっと放っておかれることです。置きっぱなしにした寿司は、鮮度がすぐに落ちることはありませんが、どんどん乾いて美味しくなくなってしまいます。
3秒で食べろとは言いませんが、5分以内には召し上がってほしい。煮つめとかタレがついているものはタレが付け台に落ちないうちに食べたほうが美味しいと思います。
天ぷら屋さんやステーキハウスのカウンターでも同じでしょう。せっかくの揚げたての天ぷら、焼き立てのステーキが冷たくなってしまってはぜんぜん美味しくない。
なかには話に夢中になったカップルが「おまかせ」の寿司を付け台に10貫も並べてしまうことがあります。あるいは、「手巻きをくれ」と言われて、こちらは海苔がパリッとした状態で出しているのに、それを付け台や皿の上に置いたまま話を続けるお客さんもいる。
それじゃあ、せっかくの旨い海苔がしけっちゃいますよ。だったらカウンターに座る必要はない。話がしたいならテーブル席で食べればいいんです。食事の楽しみ方を間違えています。
鮨は握り立てのほうが旨いに決まってます。せっかく心を込めて握った寿司が乾いていくのを見ているのは悲しいものです。
板前のほうもお客さんのリズムを考えて、お客さんが寿司を口に運び咀嚼して飲み込むのを見てから次を握り始めます。わざわざカウンターに座るなら間合いというものを大事にしてほしいですね。
よく聞く話で、寿司屋のレベルを見るのに、まず、穴子、コハダ、玉子を頼むというのがあるようです。寿司屋の仕事の基本、煮る、つける、焼くを見るためにこの3種を頼むそうです。
私から言わせれば、そんなことで寿司屋を試すのはやめた方がいいですね。食材というものが身近で調理法にも詳しかった昔の人に比べて、ネタのこともよくわからない今の人がどれだけ判断がつくんでしょうか。
今は、玉子ひとつとったって、築地で旨い玉子焼きを仕入れている店も多いんです。それで、焼きの仕事ぶりを見ようったって無理な話です。
言いたい放題、きついことも書かせていただきましたが、あくまで、寿司を美味しく気持ちよく食べていただくためです。ここも、「江戸っ子は五月の鯉の吹き流し」ってことでご勘弁ください。
(本文は、2012年6月15日刊『寿司屋の親父のひとり言』に加筆修正したものです)
すし 三ツ木
住所:東京都江東区富岡1‐13‐13
電話:03‐3641‐2863
営業時間:11時半~13時半、17時~22時
定休日:第3日曜日、月曜日
交通:東西線門前仲町駅1番出口から徒歩1分