「独学力」向上!トレーニング受験理論

物議をかもした伝説の東大入試問題 受験生の正答率が2割

トレーニング受験理論

一流アスリートには常に優秀なトレーナーが寄り添います。近年はトレーニング理論が発達し、プロアスリートやオリンピック・メダリストはプロトレーナーから的確な指導を受けるのが常識。理論的背景のない我流のトレーニングでは、厳しい…

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一流アスリートには常に優秀なトレーナーが寄り添います。近年はトレーニング理論が発達し、プロアスリートやオリンピック・メダリストはプロトレーナーから的確な指導を受けるのが常識。理論的背景のない我流のトレーニングでは、厳しい競技の世界で勝ち抜けないからです。自学自習が勉強時間の大半を占める受験も同様です。自学自習のやり方で学力に大きな差が出るのに、ほとんどが生徒自身に任されて我流で行われているのが実情です。「受験は競争、受験生もアスリート」。トレーナー的な観点から、理にかなった自学自習で結果を出す「独学力」を、エピソードを交えながら手ほどきします。名付けて「トレーニング受験理論」。その算数・数学編です。第2回は、伝説の東大入試問題の話題です。

まさに「トーダイ下暗し」

まさに「トーダイ下暗し」

1999年、東大入試の数学の第1問(文系・理系共通)で、三角関数の定義の説明と加法定理の証明が出題され、話題となりました。加法定理は、三角関数の単元において、おそらくどの教科書でも初めの方で学ぶ基本定理で、その証明も記載されています。東大でそのような問題が出題されたこと自体、受験界に驚きを与えましたが、さらに衝撃だったのは、受験生の正答率が2割程度だったことです。

1999年東大数学第1問

難問に取り組んでいる東大受験生たちの多くが、土台であるはずの基本定理を証明できなかったという事実は、まさに「トーダイ下暗し」の格言を裏付ける結果となってしまいました。ちなみに、この公式が証明できる高校生は、全国に5%もいなかったというデータもあるようです。

「ラジアン」って何?

それから約20年経った2018年。大学入試センター試験の終了後、当時私が指導していた高校3年生B君に、試験の出来具合を聞いてみました。

B君「第一問でいきなりラジアンの定義が出てきて、『えっ、ラジアンって何?』って、メッチャあせりました」

私「緊張してパニックになったの?」

B君「いいえ、ラジアンを知らなかったんです。」

私「!?」

2018年センター試験数ⅡB第1問

質問の仕方が変わると、途端に解けなくなる

「ラジアン」とは角度を表す単位です。小中学校では角度は「度」を使いますが、高校の数学II以上では通常ラジアンの方を使います。B君の発言を聞いて、冗談を言っているのかと思いました。それまで彼はラジアンを使って三角関数の問題をスラスラ解いていたからです。ところが本人はいたって真面目に受け答えしていたのです。ちなみにB君はその年現役で東京大学文科I類に合格しました。

このように、ラジアンを使った問題は解けるけれどもラジアンの定義自体はよく理解していない、といった一見矛盾するような事態に出くわすことがあります。不思議に思われるかもしれませんが、表面化しないだけで、実はこのようなことは往々にして起こっています。なぜなら、解き方さえ覚えれば、パターン通りの典型的な問題はある程度解けてしまうからです。解いたことがある問題は解けるけれど、少し質問の仕方を変えられると途端に解けなくなる、という子供は要注意です。自分で考えて解いているわけではなく、決まったやり方で機械的に処理しているだけの可能性があります。

数学の基礎力とは

数学の基礎力というと、多くの学生は問題集の基本問題を解けるようになることを想像することでしょう。しかしそれだけでは不十分なことは、前述のエピソードからお分かりかと思います。

数学の理論体系は、概略次のようにして構築されます。まず、「合同」「方程式」「導関数」などといった、用語や概念の出来るだけ厳密な『定義』が定められます。そして、証明なしに認める『公理』(たとえば、「a=bならばa+c=b+c」)を前提におきます。それらをもとに、正しいことが証明されたものを『定理』や『公式』として認めます。証明された定理や公式を使って、さらに新しい定理や公式を導き、それを繰り返すことによって体系が拡張されていきます。こうして成立した体系の中で、さまざまな数学的問題を創出し、それらを解決していくことが出来るのです。

したがって、数学の基礎力を身に付けるには、定義をきちんと身に付け、教科書記載程度の定理・公式を証明・導出できるようにし、その上で基本問題を解けるようにすることが理想です。

ただし、「理想」と言ったのは、必ずしもそのような順序で学習することが出来ない場合があるからです。たとえば円の面積を求める公式は小学校で学びますが、もちろん小学生にこの公式を導き出すことは出来ず、丸暗記して使うしかありません。このように、特に初学者の段階では、定理・公式を天下り的に受け入れて使わなければならないことが少なくありません。このことが、その後の数学の学習でも、定理・公式を無条件に受け入れて使う一因になっているのかもしれません。

基礎力をつけ、数学力をレベルアップする方法

定理・公式の証明をマスターしよう

定理・公式を証明・導出できなくても、それらを使いこなせれば、入試問題もそれなりに解くことが出来ます。そのためか多くの生徒は定理・公式の証明・導出にそれほど関心を払いません。しかし、先人が残した定理・公式を導く過程には、その分野の深い理解や、抽象化・一般化する力、洞察力、インスピレーションなどさまざまなエキスが溶け込んでいます。東大入試の例のように、定理・公式の証明は必ずしも簡単であるとは限りません。定理・公式を証明・導出できるようにすることは、数学のセンスを磨き、それらを使いこなす応用力も養うことにもつながります。「算数や数学が苦手でどのように勉強すれば力が付くか分からない」、「ある程度のレベルの問題までは解けるが、発展的な問題や難問は解けない」などの課題を感じている方は、定義・定理・公式から見直すことをお勧めします。

定義・定理・公式の学習にもっともすぐれたテキストは、学校で使う教科書です。教科書には必須の定理・公式と、その証明や導出がコンパクトに収められています。定義については、何も見ずに言葉で説明できるようにすることです。定理・公式の証明は、まずは教科書をしっかり読んで理解して、自ら証明・導出できるようにしましょう。基礎固めが出来ると同時に、必ずや数学力のレベルアップに繋がることと思います。

圓岡太治(まるおか・たいじ)
三井能力開発研究所代表取締役。鹿児島県生まれ。小学5年の夏休みに塾に入り、周囲に流される形で中学受験。「今が一番脳が発達する時期だから、今のうちに勉強しておけよ!」という先生の言葉に踊らされ、毎晩夜中の2時、3時まで猛勉強。視力が1.5から0.8に急低下するのに反比例して成績は上昇。私立中高一貫校のラ・サール学園に入学、東京大学理科I類に現役合格。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。大学在学中にアルバイト先の塾長が、成績不振の生徒たちの成績を驚異的に伸ばし、医学部や東大などの難関校に合格させるのを目の当たりにし、将来教育事業を行うことを志す。大学院修了後、シンクタンク勤務を経て独立。個別指導塾を設立し、小中高生の学習指導を開始。落ちこぼれから難関校受験生まで、指導歴20年以上。「どこよりも結果を出す」をモットーに、成績不振の生徒の成績を短期間で上げることに情熱を燃やし、学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて難関大学に現役合格した実話「ビリギャル」並みの成果を連発。小中高生を勉強の苦しみから解放すべく、従来にない切り口での学習法教授に奮闘中。

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