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ベストセラー作家は、酒癖の悪い巨乳好き

デュマは魚の皮と瘠せた女が大嫌いだった。

「オレは結婚しないで500人の〈小デュマ〉を作ってみせるぞ」

と豪語しただけあって、デュマのベッドには貴族夫人、女優、ダンサーから小間使いまでが切れ目なく出入りしていたが、どの女もバストが大きいという共通点を持っていた。

デュマはまた大勢の人たちと食卓を共にすることが好きで、いつも気取ったフロックコート姿の詩人ミュッセや、作品『エルナニ』がコメディ・フランセーズ座で上演されて脚光を浴びはじめた若者ヴィクトル・ユゴーや、ときには画家のドラクロア、劇作家のメイヤック、哲学者で文部大臣のジェール・シモソ、シャンソン歌手のデゾゥジェ、それにバルザックなどが一緒だった。

エミール・ゾラはまだパリで生まれたばかりで、これらの巨星たちが夜遊びから引退したころ頭角を現し、マドレーヌ広場の一隅にあったカフェ・デュランのテーブルの上で、

『私は弾劾する……』

にはじまるドレフュース事件告発の一文を書いたのである。

それはともかくとして、デュマはあまり酒ぐせのいいほうではなかったらしく、夜毎の酒宴の最後に泥酔したこの巨漢を介抱するのが、仲間たちには耐えられない重労働であったという。あるときなどは、とうとう酔いつぶれたデュマを運ぶことができず、マリヴォー街の石だたみの上に一晩放り出したままにしておいたそうだ。

(本文は、昭和58年4月12日刊『美食・大食家びっくり事典』からの抜粋です)

『美食・大食家びっくり事典』夏坂健(講談社)

夏坂健

1936(昭和9)年、横浜市生まれ。2000(平成12)年1月19日逝去。共同通信記者、月刊ペン編集長を経て、作家活動に入る。食、ゴルフのエッセイ、ノンフィクション、翻訳に多くの名著を残した。その百科事典的ウンチクの広さと深さは通信社の特派員時代に培われたもの。著書に、『ゴルファーを笑え!』『地球ゴルフ倶楽部』『ゴルフを以って人を観ん』『ゴルフの神様』『ゴルフの処方箋』『美食・大食家びっくり事典』など多数。

Adobe Stock(トップ画像:Viks_jin@Adobe Stock)

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おとなの週末Web編集部 今井
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