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奇跡はなぜ起きた?巨人の「急造バッテリー」が遠因に

なすすべなく3者連続ホームランを打たれてしまった巨人バッテリー。この日は正捕手の山倉和博(68)がケガで欠場し、マスクを被っていたのは、この年に近鉄から移籍し、前日がプロ初スタメンの佐野元国(66)だった。

佐野はバースを打席に迎える前に、マウンドにかけより、槇原と初球はボールから入ることを確認している。しかし、槇原が投げたのは真ん中低めの半速球。バースとの前の打席で、憶えたてのシュートをほぼぶっつけ本番で投げたところ、併殺に打ちとっていたため、この打席でも投げたのだという。

この初球について、槇原は後年、次のように語っている。「勝手に投げちゃった」。つまり、ストレートのサインを無視し、自分の判断でシュートを投げたのだという。

佐野はどうか。実は、本人に聞く機会が以前あった。「外角に外れるシュートを要求したが、甘く入って打たれた」と打ち明けた。

後日談は食い違うが、結果球はシュートで同じ。槇原が自己判断でシュートを投げたことや、佐野が槇原のシュートが即席であることを知らず要求したことに、コミュニケーション不足が見て取れる。

甲子園球場(2019年撮影) 撮影/石川哲也

佐野はこの場面について「あれは打った選手たちがすごい。フリーバッティングで3発をバックスクリーンへ放り込めと言われても、そう簡単にはできませんからね。それだけあの年の阪神のクリーンアップは強力だった」(ベースボール専門メディア「Full-Count」の『伝説のバックスクリーン3連発浴びた巨人捕手の後悔 忘れられぬ王監督の“鬼の形相”』より)とした上で、次のようにも話している。

「もしも山倉さんがマスクを被っていたら、あの3連発はなかったんじゃないかな。明らかに経験不足だった」(同)

バースにシュートを打たれた後も、掛布には得意のストレート、岡田には決め球のスライダーを見透かされたように完璧に弾き返され、配球が全て裏目に出てしまった。あの日、あの場面、巨人が「急造バッテリー」であったことも奇跡が起きた遠因になったのかもしれない。

リニューアル前の甲子園球場外観(2006年撮影) 撮影/石川哲也

「伝説の理由」21年ぶりのリーグ優勝、初の日本一に突き進むきっかけ

3連発の口火を切ったバースは、このシーンが持つ意味を次のように語っている。

「バックスクリーン3連発というのは、直接的にはあの年の優勝の大きなポイントではなかったかもしれない。でも、ひとつ、言えるのはあの試合を含めて開幕直後に巨人に3連勝した。それが大きかったと思う。オレたちは優勝するためには巨人を倒さないとダメだ、という話をいつもしていたからね。その巨人をいきなりあの3連発で打ちのめして3連勝した。そのことが大きかったと思うよ」(「Number」885号 2015年9月3日)

3本のアーチが立て続けにバックスクリーンに飛び込むというインパクトに加え、バースが言うように対戦相手が宿敵、巨人であったこと、そしてこのシーズンは、阪神の21年ぶりのリーグ優勝、初の日本一へと突き進むきっかけになったことが、今なお「伝説」として語り継がれる理由だろう。

甲子園球場の外野席(2006年撮影) 撮影/石川哲也

そして「BKO砲」によるものだったことも大きい。3番バース、4番掛布、5番岡田は「BKO砲」と称された球史に残る強力クリーンアップトリオだ。このシーズン、バースが三冠王に輝き、3人揃って打率3割、30本塁打、100打点をクリアしている。この3人の打棒が爆発したことが、このシーズンの阪神日本一の原動力となった。その意味でもバックスクリーン3連発という奇跡の競演に相応しい役者が揃っていた。

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森下、大山、佐藤輝と2024年シーズンも役者は揃った...
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この記事のライター

石川哲也
石川哲也

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