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御身位で異なる列車の名前

皇室が鉄道を利用する場合、御身位(身分と地位)によってその扱い方には独特のルールが存在する。これは、明治以降から脈々と受け継がれてきたもので、時代の流れに合わせて見直しが行われているものだ。天皇、皇后両陛下がご乗車になる列車は「お召列車(おめしれっしゃ)」と呼ばれ、専用の車両を使用することもあれば、通常の列車(車両)を使用することもある。

ところで、「お召列車」は「お召し列車」ではないのか、と思われた読者もおられることだろう。そもそも「お召」とは、所作に対する尊敬語(召し上がる等)を列車名に冠したもので、宮廷用語たる「お召」には送りがなの「(お召)し」は用いない。これは、明治時代から続く「送りがなの省略の慣用」が伝統として踏襲されているからである。お召列車は基本、臨時に仕立てた列車であり、いわゆる時刻表に掲載されている通常の列車とは一線を画す列車という位置づけになっている。

では、秋篠宮皇嗣家はどうであろうか。皇太子の御身位ではない皇嗣という身分であるため、特に列車名に「別名」を冠することはしていない。お乗りになる列車は、臨時に仕立てるものではなく、通常の営業列車に連結する車両の一部(随行員を含めた人数分の座席だけ)を借り上げられている。

過去のケースでは、皇太子の御身位だった場合、お乗りになる列車は「御乗用列車」と呼び、臨時に仕立てた列車の場合もあれば、通常の営業列車に連結する車両を1両だけ貸し切りにすることもあった。宮家皇族方の場合は、通常の営業列車へ必要な座席数を確保して乗車されている。

上越新幹線お召列車へご乗車になる天皇、皇后両陛下。新幹線に皇室専用の車両はなく、通常の営業列車と同じ車両をご使用になる。列車は、警備上の理由から編成ごとチャーターされ、団体臨時列車として運行される。両陛下の場合、一般の車両を使用した臨時列車であっても「お召列車」と呼ぶ。=2019年9月17日、新潟駅

「きっぷ」は購入する?

JRになる前の国鉄の時代は、天皇、皇后、皇太子、同妃、子孫殿下とその随行者は、運賃と料金ともに無賃(無料)とされていた。もっともこれは国鉄に限った話であり、私鉄はといえば皇室のすべての方々は実費精算により運賃と料金を支払っていた。

では、現在はというと運賃と料金は当然のごとく支払われている。ただ、皇室の場合は一般の利用者とは異なり、旅客営業規則といった運送約款が存在しないため、年度ごとに鉄道事業者と宮内庁とで契約書を取り交わして、支払いに関する協定を結んでいる。ゆえに、一般の利用者に適用される往復割引や団体割引などの制度は、皇室の方々には適用されない。なお、支払いは鉄道事業者からの請求書による後払いとなっており、乗車券などの「きっぷ」のやり取りは行われない。ただし、このローカルルールは公務に関連した鉄道利用を前提としており、プライベートでのご利用や交通系ICカードによる決済に関しては、一般の利用規則に準じて扱われている。

一例として、皇室専用車両を連結したお召列車6両編成の運賃・料金体系は、運賃(乗車券)+特急料金+グリーン料金をベースに、乗車人数を掛けた金額が算出される。

「きっぷ」は持たずに有人改札口を通られる上皇ご夫妻。この日、日光へ向かわれた上皇ご夫妻がご乗車になられた“お召列車”は、東武鉄道の最新型特急「スペーシアX」であった。お座席はグリーン車に相当するプレミアムシートかと思われたが、普通席(スタンダードシート)をご利用になられた。特別扱いを好まれない上皇陛下らしいお振る舞いだった=2024年5月28日、東武浅草駅

文・写真/工藤直通

くどう・なおみち。日本地方新聞協会皇室担当写真記者。1970年、東京都生まれ。10歳から始めた鉄道写真をきっかけに、中学生の頃より特別列車(お召列車)の撮影を通じて皇室に関心をもつようになる。高校在学中から出版業に携わり、以降、乗り物を通じた皇室取材を重ねる。著書に「天皇陛下と皇族方と乗り物と」(講談社ビーシー/講談社)、「天皇陛下と鉄道」(交通新聞社)など。

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