ふわふわの食感の中に残る髪の毛1本分のコシ
旅の2日目に向かったのは、伊勢神宮外宮の近くにある『中むら』。この店は地元TV局の情報番組で何度か見たことがある。たしか、麺に溶き卵を絡めた伊勢うどんを紹介していたと思う。それなら食べられるかもしれないと思ったからしっかり覚えていたのだ。
「たぶんそれは『伊勢玉子うどん』ですね。釜玉うどんと似ていますが、こちらは白身も入るし、あらかじめ麺と玉子が混ざり合った状態で出てきますよ。玉子で味がマイルドになりますから、食べやすいと思います」と、加藤さん。
筆者は「伊勢玉子うどん」(620円)を、加藤さんは「伊勢うどん」(560円)をそれぞれ注文することに。
予想通り、「伊勢玉子うどん」は旨かった。甘辛いタレは玉子との相性が抜群なのだ。
それと、茹でたてのうどんの熱で玉子がところどころ半熟になっている部分もおいしい。あれ? ここの麺も『つたや』と同様にもっちりとしている。伊勢うどんビギナーである私は逆にそれがありがたいのだが、加藤さんが求める食感ではなかったようだ。
「私がおいしいと思う麺は、ふわふわの食感の中に髪の毛1本分のコシを残しているんですよ。店主が代替わりしている店もあるし、本来対極にあるはずの讃岐うどんに少なからず影響を受けているかもしれませんね」(加藤さん)
本誌にも書いた通り、江戸時代よりも前から農家がうどんに味噌を仕込む際にできたたまりをかけて食していたのが伊勢うどんのルーツ。江戸時代初期にカツオ節などを加えて食べやすくしたうどんを出す店が開店する。
というのが、伊勢うどんの歴史である。おそらく、まだこの時点ではローカルフードの域を出ていなかったと思う。
潮目が変わったのは、“おかげ参り”という言葉が生まれた1771年以降。60年を周期として“おかげ年”と呼ばれる年ができ、お伊勢参りが一大ブームとなったのだ。1705年には約350万人、1771年には約200万人、1830年には約428万人もの人が参拝に訪れたという。
「うどん屋ではひっきりなしに注文が入るので、少しでも早く提供するために常に麺を茹で続けたわけです。結果的にそれが長旅で疲れた胃腸にやさしく、参拝客から大好評を博したということですね」(加藤さん)
いやー、伊勢うどんは実に奥が深い! 後編ではさらなるディープな伊勢うどんの世界を紹介いたします。お楽しみに!
取材・撮影/永谷正樹